南丹日本語クラブ

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日本語教育おすすめ本 8

日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。

認知と言語〜日本語の世界・英語の世界

濱田英人

日本語と英語を認知言語学の観点から比較考察した本。日本語は知覚と認識が融合した対象密着的な場面内視点、英語はメタ認知的な客体的な場面外視点の傾向が強く、それぞれの文法もそうした認知的特徴から構築されていることを明らかにしている。「は」「が」もそのフレームで説明している点は対比や総記をどう繰り込めるのかという疑問が残るが、概ね日英語の認知的特性と文法を包括的に説明している名著。

開拓社、平成28年(2016)10月

日本語の謎を解く〜最新言語学Q&A

橋本陽介

独学で7ヶ国語を習得したという中国文学者が書いた日本語エッセイ。専門の日本語学者ではないのでオリジナルな知見はないが、日本語をめぐる様々な問題73トピックを取り上げ、諸説を自分なりに整理している。日本語を数年間勉強した場合に必ず逢着する疑問の数々を取り上げており、すっきりした整理と過不足のない解説をしていて、非常にわかりやすい日本語入門になっている。

新潮社、平成28年(2016)4月

琉球諸語と古代日本語〜日琉祖語の再建にむけて

田窪行則、ジョン・ホイットマン、平子達也編

日本語と唯一同系と証明されている琉球諸語の日琉共通祖語再建に関連する論文を集めた本。平成25年に京都大学で行なわれたワークショップ「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」をもとにしたもので、日本と外国の13人の研究者の論文を収める。トマ・ペラールの「日琉祖語の分岐年代」では、古墳時代ぐらいに分岐してから九州にいたグループが11〜2世紀に琉球に渉ってきたとする。

くろしお出版、平成28年(2016)4月

「人間らしさ」の言語学

織田哲司

英語学者が言語とは何かを考察した本。プラトンとアリストテレス、中世や近代の言語起源論、印欧比較言語学、構造主義言語学、変形生成文法と認知科学、言語相対論など様々な学説を辿り、人間であることと同じと言える言語の世界を論じている。時空を超え、現実を虚構や嘘によって超え、自然と数学的論理の中間の世界に生きる人間の面白さを感じさせてくれるエッセイになっている。

開拓社、平成28年(2016)3月

修辞的表現論〜認知と言葉の技巧

山梨正明

客体的な言語に対する論理的・形式的研究ではなく、表現主体の認知の過程と諸相との関連で言語を考察する認知言語学の立場から、日常言語や文学表現を研究した本。客観的叙述以外に、メタファーやアイロニーなどを駆使して、人間の内面、空想、可能世界等の主観的表現を行ない、聞き手に推論させる修辞的表現の機能を、ズーミングなどの認知プロセスの分析から明らかにしている。

開拓社、平成27年(2015)10月

ことばをめぐる諸問題〜言語学・日本語論への招待

松本克己

比較言語学・言語類型論において独走的な仕事をしている言語学者が、現代言語学の重要トピックを論じた論文集。比較言語学の教科書的な解説、著者が得意とする言語類型論、特に語順論などの論文を収めるが、第4部は「日本語・日本人のルーツを探る」と題して、昨今進歩著しい遺伝子人類学、遺伝子系統地理論を取り入れ、比較言語学・言語類型論と融合した日本語・日本人ルーツ論を展開している。

三省堂、平成27年(2015)3月

文法現象から捉える日本語

岸本秀樹

生成文法の立場から日本語の文法現象を、英語と比較しながらの類型論的な観点も入れつつ考察した本。これは容認されてこれは容認されないという日本語の文法現象を取り上げ、そこに働いている文法規則を説明するというオーソドックスなものだが、説明がわかりやすいものから、日本語教育に取り入れられそうにない複雑なものまである。文法現象を見ているだけでも、言葉が変化途上にあることがわかる。

開拓社、平成27年(2015)3月

言語理論としての語用論〜入門から総論まで

今井邦彦

生成文法の立場から語用論を解説した本。関連性理論・言語行為理論・グライス理論・新グライス派・認知言語学という5つの語用論理論を紹介し、それぞれの説の批判的検討を行なっている。とりわけ認知言語学は激しく批判している。語用論を単純に文脈に依拠した言語使用とは捉えず、生成文法的観点からの、言い換えれば自然科学的な観点からの文法論として捉えようとしている。

開拓社、平成27年(2015)3月

英語の素朴な疑問から本質へ〜文法を作る文法

小野隆啓

生成文法の立場から英文法を考察した本。個別言語の文法は普遍文法の原理と変数に基づくという理論から、疑問文の構造、動詞の項構造、名詞句の移動、代名詞の特性、多階層分析、時制と相、話題化などのテーマを立てて、高校までで学ぶレベルの英文法において誰もが抱く疑問を解き明かしている。普遍文法そのものに関して疑問があるとしても、生成文法の理論枠組の中ではわかりやすいものになっている。

開拓社、平成27年(2015)3月

日本語の起源と古代日本語

京都大学文学研究科編

日本語起源論と古代日本語研究の本。平成24年に京大で開催された公開講座の単行本化。日本語起源論の2編、木田章義「日本語起源論の整理」、松本克己「私の日本語系統論」が断とつに面白く、特に言語類型地理論と遺伝子系統地理論を統合した松本論文は言語類型論による分析に遺伝子解析を重ね合わせ、人類の地理的展開と言語の展開をかなりの程度明らかにし、従来の通念を科学的に覆している。

臨川書店、平成27年(2015)3月

日韓漢文訓読研究

藤本幸夫編

古代チャイナの文字言語を周辺諸国が漢文として受容する際に、自国語のシンタクスによって読むように工夫した方法、いわゆる訓読法について、小林芳規をはじめとする日韓16人の研究者が、典籍類や木簡、角筆資料などから、日本と朝鮮半島そしてウイグルの例を研究した論文集。確証はないとしつつ、漢文訓読法は当時の先進文明の朝鮮半島に起源を有し、百済や新羅から日本に伝わったものとしている。

勉誠出版、平成26年(2014)11月

文法化する英語

保坂道雄

英語における文法化について研究した本。文法化とは自立語が文法的な役割を担う文法語や接辞となる現象を言うが、冠詞、形式主語、助動詞などの文法化現象が古英語・中英語・近代英語・現代英語のどの段階で起こったかを文法史的に研究している。格変化の減少が主語の義務化や語順の固定化につながったと正当に指摘しているが、全体に英語を規範とする生成文法的バイアスがかかっているようにも見える。

開拓社、平成26年(2014)10月

ディベートが苦手、だから日本人はすごい

榎本博明

日本人のコミュニケーションの文化的価値観と振る舞いと言語表現を、欧米や中国などと比較しながら考察した本。日本人は対立を回避し、敗者を作らず、自己主張を控えて、タテマエを使いこなして和を図ろうとする。ディベートが下手なのも文化的要請による。欧米や中国などはこれと正反対の世界である。これまで否定的に捉えられてきた日本的コミュニケーションを評価し、国際社会に拡げることの意義を説く。

朝日新書、平成26年(2014)6月

ことばの仕組みから学ぶ和文英訳のコツ

畠山雄二編

言語学的な知識を踏まえて英語を日本語に翻訳するコツを伝授した本。畠山雄二・田中江扶・谷口一美・秋田喜美・本田謙介・内田聖二・成瀬由紀雄が担当し、生成文法、認知言語学、日本語文法、語用論に基づく和文英訳のコツ、そしてビジネス文書や文学の翻訳などの実務翻訳のコツから成る。特に難しいことは書かれておらず、しっかりした文法書に加えて本書があれば、一般的なレベルの英語の知識は完備する。

開拓社、平成26年(2014)6月

言語起源論の系譜

互盛央

ヨーロッパにおける言語起源論の系譜をプラトンからチョムスキーまで辿った本。祖国の正統性を根拠付けるための「起源の言語」探しから、近代において人間を根拠付けようとする「言語の起源」探しになり、それが社会契約論や一般意志論などと重なり合って政治化しながら、ソシュールに到って言語は起源を問えないものとなり、チョムスキーで言語が生得的な本能とされるまでを跡付けている。

講談社、平成26年(2014)5月

新英文法概説

山岡洋

大学生向けに、文中での機能から英文法を解説した本。学校英文法の5文型ではなく、主部・述部・修飾部の構造から説明し、品詞も主部・述部の機能から説明している。生成文法の成果を踏まえているが、難解なところはなく、平易な例文を使い、日本語文法の概説書に近いレベルで文法用語と文法の説明を徹底的にやっているのが特徴(実際、英文法と日本語文法を対照している)。文法好きには楽しめる一冊。

開拓社、平成26年(2014)5月

思考訓練の場としての漢文解析

市川久善

漢文を英文法の知識を参照して学ぶというメソッドを提起した受験参考書。日本の漢文の読み方は古人が外国語である漢文を日本文のように読むように工夫したものだが、文法的な読解としては無理があるとして、英文法の知識を参照枠にして、漢文の正しい文法を踏まえた読解法を教える。漢文がわかる名著だが、漢文学習とは実は古典日本語を学ぶものという点からはその本旨を無意味化するものともなっている。

育文社、平成26年(2014)4月

驚くべき日本語

ロジャー・パルバース著/早川敦子訳

母語の英語を含めて露・ポーランド・日本語の4カ国を自由に操り、日本語はネイティブと変わりないというアメリカ出身のライター・翻訳家が日本語を論じた本。日本語に日本文化の反映を見つつ、日本語は日本人しかわからない特殊な言語ではなく、話し言葉としてはむしろ学びやすい言語だとする。さらに、その自在さ、使い勝手の良さから日本語はリンガ・フランカ(世界語)としての役割を担い得るとする。

集英社、平成26年(2014)1月

タテ書きはことばの景色をつくる〜タテヨコふたつの日本語がなぜ必要か?

熊谷高幸

今や日本語と台湾語にのみ生き残っているタテ書きとはどのようなものかを、ヨコ書きとの比較において考察した認知心理学の本。ヨコ書きは序列的で論理的、ヨコ書きは並列的で全体把握的という認知的特徴があり、タテ書きは文脈や意図を汲み取りやすいという。タテ書きの消滅は日本人の認知の世界を失うことであり、決して消滅させてはならず、ヨコ書きとの併用を続けることを提言している。

新曜社、平成25年(2013)10月

英語定型表現研究〜歴史・方法・実践

八木克正・井上亜依

イディオムのような英語定型表現、句を研究対象としたフレイジオロジーの本。フレイジオロジーの理論、研究史、実例による研究から成る。語を単位とした統語論では説明できない句単位の英語定型表現を、認知言語学的なアプローチと、外国語として英語を研究してきた日本の英語学の蓄積に基づいて、解明しようとしている。定型表現はひとまとまりの意味論的単位として捉えられることがわかる。

開拓社、平成25年(2013)10月

ことばを読む、心を読む〜認知語用論入門

内田聖二

関連性理論の枠組で用いられる学問的呼称である認知語用論の入門書。ことばは字義通りの統語的意味だけではなく、文脈、人間関係、視点、文化などによって解釈が様々に異なってくるが、関連性理論の知見を援用して、表意と推意、メタ表象、修辞表現、テクスト解釈などを、日本語と英語の文やテキストを例に、考察している。認知言語学らしく、議論そのものは難しくはない。

開拓社、平成25年(2013)10月

知覚と行為の認知言語学〜「私」は自分の外にある

本多啓

日本語と英語を対象に、生態心理学の観点を取り入れて考察した認知言語学の本。言葉の意味の基盤を日常的な経験の仕方に求める認知言語学の観点から、様々な言語の問題を論じている。言葉に知覚の経験が様々な形で反映していることをテーマにし、中心的な論点は、「視点」による相対性が言葉に反映されていること、言い換えれば、世界を語ることは同時に自己を語ることであるという点に収斂される。

開拓社、平成25年(2013)8月

英文法の楽園〜日本人の知らない105の秘密

里中哲彦

英文法の知識を見開き2ページで解説したコラム集の続編。新聞連載時に寄せられた英文法についての105の質問に回答するという形で、英語学習者の疑問に応える、学校英文法の枠を一歩踏み出す英文法の魅力を伝える。杓子定規の文法ではなく、ネイティブがよく使っている表現、また許容できる表現までを解説している。高校レベルの文法知識は必要だが、読物としても面白い。

中公新書、平成25年(2013)8月

言霊とは何か〜古代日本人の信仰を読み解く

佐佐木隆

古代の言霊という概念について、文献に即して考察した本。『古事記』『日本書紀』『風土記』『万葉集』などから、言霊はあくまで神との関連における概念であり、その意味ではアニミズムを脱していた古代人の信仰の世界を明らかにしている。そして、現代でも流通している言葉の威力としての言霊観は、契沖や真淵は弁えていたが、その後の近世の国粋主義者の理解(誤解)から作られたものとする。

中公新書、平成25年(2013)8月

言語学の教室〜哲学者と学ぶ認知言語学

西村義樹、野矢茂樹

哲学者野矢茂樹が、認知言語学について、専門家である西村義樹と語った本。専門家ではない野矢のすぐれた質問によって専門家同士ならスルーされる問題点が明らかにされていくことによって、認知言語学の世界を知るのにもっともすぐれた入門書となっている。野矢が西村にぐいぐい迫り、西村が押されつつも専門的な見地から押し切られずに踏み止まって議論を深めていく、緊張感にあふれた問答が素晴らしい。

中公新書、平成25年(2013)5月

英語接辞の魅力〜語彙力を高める単語のメカニズム

西川盛雄

英単語の語構成の仕組みと語源をよく知ることで、英語の世界をさらに深く知ろうとした本。特に英語の接辞(接頭辞と接尾辞)に焦点を当て、英単語の生産の秘密に迫る。オノマトペよりできた接辞なども興味深い。英語が雑種言語であるがゆえの語の無尽蔵の生産性の高さという点では、日本語とも似ていることがわかる。整理された内容と知的な語り口が相俟って、タイトル通り魅力的な一冊。

開拓社、平成25年(2013)6月

ことばで考える〜ことばがなければものもない

安井稔

70年以上に亙って英語・言語を研究してきた、本書刊行時90歳を超える英語学者の論文とエッセイをまとめた本。思考と言語の深い関係を考察した論文、専門家から見た批判的現代英語教育論の他、フロー理論に関するエッセイ、自分の人生の略伝や著書一覧などを収録している。日本語のオノマトペは日本語が英語のように抽象度が高くなく、自然に密着していることを示すものとしている。

開拓社、平成25年(2013)3月

「つながり」の進化生物学〜はじまりは、歌だった

岡ノ谷一夫

言語の起源を動物の行動から研究している著者が、コミュニケーションをテーマに、高校生16人に行った連続講義。意識や言語がなぜ生まれたのか、人間以外の生物に意識や言語はあるか、コミュニケーションは何のためにあるのかなどを考えている。進化生物学的に見て、高度に発達した人間の意識や言語が適応的と言えるかはわからない(副産物として発生した前適応の状態かもしれない)としているのが面白い。

朝日出版社、平成25年(2013)1月

言語が違えば、世界も違って見えるわけ

ガイ・ドイッチャー著/椋田直子訳

言語と認知の関係を考察した本。サピア=ウォーフの仮説で知られる言語相対論と言語生得説の生成文法派の対立をテーマにして、色彩の知覚、空間把握、言語における性別を取り上げ、言語(母語)は感覚を変えるわけではなく、抽象的推論能力を歪めるわけでもないが、心の習慣を形成して認知・記憶・連想などに影響を与えるとし、言語による文化の固有性を支持する。普遍文法の無理な普遍化も批判している。

インターシフト、平成24年(2012)12月

日本語と英語〜その違いを楽しむ

片岡義男

英語が堪能な小説家による日本語と英語の表現を比較考察した本。著者には英語は論理的で主語がはっきりした責任の所在を明確にした言語、日本語はそうではないからダメという前提があり、その価値観に合わせて例題を選択し、論じている。源氏物語はわからないが、現代の英語で翻訳したもので読むとよくわかるとか(それなら現代日本語に翻訳したものと比較すべき)、無媒介な議論が散見される。

NHK出版新書、平成24年(2012)10月

マンガ対訳本から学ぶ日英対照英語表現研究

衣笠忠司

マンガ対訳本の英語をコーパスにして日英語表現を対照した本。詳しい文法の解説はなく、タイトルにマンガを冠しているが、著作権の事情で文(ふきだしのせりふ)のみの日英語表現が大量に羅列されているだけだが、庶民の日常表現であるマンガの日本語に対応した英語を学ぶことができ、たとえば「ね」「よ」に相当する英語表現のような、この日本語を英語ならどう言うのかという問いに応えてくれる本である。

開拓社、平成24年(2012)10月

英語を通して学ぶ日本語のツボ

菅井三実

対照言語学的に英語と日本語を一緒に学べる本。英語と日本語の似ているところと違うところを検討しながら、中学・高校生には学校英文法と学校国文法を連携させて学ばせることが英語学習にとっても国語学習にとっても有効であることを説く。古典文法まで対照しているところが特徴。国語学や日本語教育と英文法を学んだ人が自然に抱く問題意識が整理されており、国語教師・英語教師・日本語教師に必読の一冊。

開拓社、平成24年(2012)10月

百年前の日本語〜書きことばが揺れた時代

今野真二

現代日本語が形成された明治中期の日本語の、特に書きことばのあり方を、字体、語形、漢字や仮名文字の使い方などに関して、漱石の手書き原稿や印刷や辞書などから探った本。前近代との連続性の相においては多様な日本語の形があったが、近代国家の意志として一元的な日本語へと変化して行ったことに断絶の相を見ている。そして、表記を固定する意志が近代の日本語を特徴付けていると指摘している。

岩波新書、平成24年(2012)9月

再構築した日本語文法

小島剛一

名著『トルコのもう一つの顔』で知られる言語学者・民族学者が、フランス人などに日本語を教える経験から構築した日本語文法の本。日本語文法体系を新たに作り直しているとまでは行かないが、著者の知るいくつかの言語と比較し、日本語そのものに根ざした山田・松下・三上などの文法に学びつつ、日本語の現象を文法的に説明するために独自の用語を創設して著者なりに再構築した、小島文法になっている。

ひつじ書房、平成24年(2012)8月

ことばへの道〜言語意識の存在論

長谷川宏

ヘーゲルの翻訳で知られる哲学者による言語論。昭和53年に勁草書房から刊行され、平成9年に新装版として出たものの文庫化。言語の根拠を共同存在としての人間の言語場に置き、ラングとして疎外される言語の規範的側面と主体的、自由な表現的側面とから考察を加えている。宗教、詩、日常の話し言葉、書き言葉などに分けて、言葉の機能と存在論的意味がわかりやすく説明されている。

講談社学術文庫、平成24年(2012)8月

一生モノの英文法

澤井康佑

昨今の英会話中心やネイティブの感覚重視の英語教育に異議を唱え、しっかりした文法を習得せずに英語の上達はないという前提から、中学レベルの英文法を、文の形に沿って体系的に教える英文法入門。対象の範囲を確定し、形によって分類したものを学ぶ効果が如実にわかる.英語そのものの入門レベルではなく、ある程度のレベルの英語を勉強している人が文法を整理するのに良い。

講談社現代新書、平成24年(2012)6月

英語の前置詞

安藤貞雄

日本語の助詞のように、英語の勘所とも言える前置詞について、豊富な例文とともにその複雑な意味を中核的意味と派生的意味と、さらに慣用句(句動詞・群前置詞)に分けて、教授する本。日本語の助詞と同様、ネイティブには直感的なものとして与えられている前置詞の意味論的使い分けを体得することはやはり難しいが、大量の例文をこなしているうちにイメージのカテゴリーが少しずつ見えてくる。

開拓社、平成24年(2012)6月

英文法の魅力〜日本人の知っておきたい105のコツ

里中哲彦

英文法の知識を見開き2ページで解説したコラム集。新聞連載時に寄せられた英文法についての105の質問を、語源・語彙・語感・語法・語義・誤解の6つのカテゴリーに分けて回答している。レベルは基本的なもので難しくないが、英語圏で実際に使われている表現と日本人が知識として持っているもの、特に学校文法とのギャップを埋めるものになっていて、日頃疑問に思っていることが氷解する楽しさがある。

中公新書、平成24年(2012)5月

「すみません」の国

榎本博明

日本人のホンネとタテマエの二重構造を言葉のコミュニケーションの観点から分析した本。タテマエ一点張り、論理偏重の抑圧的文化の西洋人に対し、実は日本人はホンネを理解しており、個人の論理より状況に依存し、他人のことを察しながら論理よりも感情的な合意を優先し、安定した秩序を生み出す。状況依存は無責任の弊害を生み得るが、日本的合意のメリットを国際社会に生かす道を探すべきとも述べる。

日経プレミアシリーズ、平成24年(2012)4月

英語の仕組みと文法のからくり〜語彙・構文アプローチ

岩田彩志

語彙意味論・構文理論を組み合わせた英文法の理論書。句構造パターンを、動詞をその意味に基づいて主語・目的語をいくつ取るかという関数と見做して解くアプローチと、動詞の意味ではなく公式(構文)から解くアプローチの両面から説明し、さらに語用論のメタ表示を加えて、英文法の根本を説明する。日英語を対照しながら説明を進め、かなりのところまで普遍的に通用する理論を提示している。

開拓社、平成24年(2012)4月

北緯60度の「日本語人」たち〜フィンランド人が日本語の謎を解く

ヘルシンキ大学世界文化学科編

21世紀に入り、フィンランドでは日本のポップカルチャーが人気になり、日本側もデザイン分野などでフィンランドに関心を強めている。そうしたフィンランドにおける日本語学習、日本語・日本文化研究の現状について、日本語もしくは文化的・経済的・政治的等で日本と関わりのあるフィンランド人のインタビューから報告した本。フィンランドにおける日本語教育、日フィン関係の歴史と現状が理解できる。

新評論、平成24年(2012)4月

ライトノベル表現論〜会話・創造・遊びのディスコースの考察

泉子・K・メイナード

1990年代から出版界において大きな市場を占めるようになったライトノベルの表現を、場交渉論に基づいた談話分析によって研究した本。ライトノベルの文体を会話体文章と名付け、その表現を、若者たちが単一の主体を背負わず、データベースの役割を演じることで適応している後期ポストモダンの文化・社会の環境に位置付けて読み解いている。社会言語学、さらに社会学的な要素も強い内容になっている。

明治書院、平成24年(2012)4月

ピダハン〜「言語本能」を超える文化と世界観

ダニエル・L・エヴェレット著/屋代通子訳

アマゾンに暮らす先住民ピダハンの言語を研究した本。SILの一員として聖書の伝道とそのための言語の研究にピダハンと暮らすことになった著者が、直接体験の原則に従っている即物的で非構築的なピダハンの生き方を知るにつれ、チョムスキーの言語理論に疑問を持って言語本能より文化を重視する立場に転じ、環境に適応しているピダハンを見てキリスト教信仰も捨てるに到った経緯を率直に叙述した名著。

みすず書房、平成24年(2012)3月

学校英文法プラス〜英語のより正確な理解に迫る

中野清治

学校英文法を基礎に、学習者が次のステップに行くための文法事項を、ジョークという英語の感覚を磨く格好の手段になる例文を使って解説した本。ジョークは英語が本質的に持つ両義的な読みの可能性を利用していることが多く、学校ではそうした英語の曖昧さを捨象して学ばなかったが、実はそこに学習者の戸惑いの一端があったことがよくわかる。ネクサスなどの専門的な文法用語に少しずつ親しむこともできる。

開拓社、平成24年(2012)3月

解釈につよくなるための英文50

行方昭夫

頻出問題から応用範囲が広いという基準で選んだ50文をテキストに英文解釈を学べる本。先生と生徒の対話形式で、まず生徒が訳し、その問題点を検討しながら先生が訳すという構成で、全体の流れの把握、省略や挿入、英文の雰囲気を日本語訳に反映させる、知らない単語の対処法などの観点から英文解釈を学べる。高校生レベルだが、内容的にも味わい深い文章が選ばれており、大人の学習にも適している。

岩波ジュニア新書、平成24年(2012)2月

ネイティブ添削で学ぶ英文ライティング

英語便

オンライン学習プログラム「英語便」の英文添削を単行本化したもの。課題、受講者が提出した英文、ネイティブスピーカー講師による添削文と解説、さらにその課題で講師が書き下ろした模範文という構成。ネイティブ英語使用者にとっての「自然な語感を伝える」ことに焦点を置いているが、たしかに受講者の英文が学校文法的で佶屈しがちなのに対して、講師の模範文は日本人が読んでもシンプルで読み易い。

研究社、平成24年(2012)2月

室町時代末期の音韻と表記

岡田薫

室町時代末期の特殊音素の音韻とそれに対応する仮名表記を研究した本。中世日本語は恐らく中国語の漢字の発音の影響で促音・撥音・長音をアクセントの単位としないシラビーム構造だったのが、この時期にそれらを単位とするモーラ構造に変化したという推移の過程を、キリシタン資料や豊臣秀吉ら武将の消息などの分析から解明する。日本語教師から日本語学の研究に入った人ならではの関心の持ち方が伺える。

おうふう、平成24年(2012)2月

日本書紀成立の真実〜書き換えの主導者は誰か

森博達

古代の日本語・中国語・韓国語の研究から日本書紀を読み解いた本。平成11年に中公新書から出た『日本書紀の謎を解く』以降の関連論文を集めたもので、日本書紀から正格漢文と倭臭のある漢文を分類し、誰が書いたのか、後から書き換えられた場合になぜそのタイミングにその内容なのかを明らかにする。また、最終的に藤原不比等が国家の正統史観を確立するために完成させたとする。

中央公論新社、平成23年(2011)11月

日本語は映像的である〜心理学から見えてくる日本語のしくみ

熊谷高幸

教育心理学・障害児心理学の専門家が日本語を考察した本。共同注視を生み出す三項関係が日本語の文法構造の基礎であるとし、感覚的現実を話し手と聞き手の共有の映像としてそのウチからの視点に依拠して世界を認識し、言語化する日本語の特質を明らかにしている。対するに英語はすべてを外部化した客観的で抽象的論理の言語ということになる。認知言語学に発達的視点を加味した理論になっている。

新曜社、平成23年(2011)10月

レキシコンに潜む文法とダイナミズム

由本陽子

心的辞書(メンタル・レキシコン)の働きについて研究した語彙意味論・語形成論の本。レキシコンは単語の静的な貯蔵庫ではなく、語の文法を内蔵し、語の意味や性質、話者の経験などいくつかの要素の方程式的な規則の組み合わせによって、語の文法的許容度を決め、新語を生産し、解釈をする生産的でダイナミックなものであることを明らかにし、文法がいかに働いているかに迫るアルゴリズムを提示している。

開拓社、平成23年(2011)10月

心づくしの日本語〜和歌でよむ古代の思想

ツベタナ・クリステワ

ブルガリア出身の日本古典文学研究者による和歌文学論。心が曖昧な自然や人事の現象を日本語の特質を活かして詠むことで成立する和歌の世界を、日本語に即して考察する。音節数の少ない界音節言語である日本語は、同音異義語さらには同字異義語が多いことから掛詞という修辞法を中心に詩の言語を発達させ、美的に世界認識を表現してきたと喝破し、重層的な和歌の世界を見事に読み解いている。

ちくま新書、平成23年(2011)9月

舟を編む

三浦しをん

現代の大手出版社辞書編集部を舞台に、辞書『大渡海』を作るために生まれたきたような主人公と彼を取り巻く人々が人生を辞書にかける姿を描いた小説。表題は辞書を言葉の海を行く舟に喩えたもので、イメージ的には『大言海』を踏まえているのだろう。ラブストーリーなども絡めながら、編集部に配属された現代っ子の出版人たちが辞書作りにのめり込んでいく姿を、生き生きと描き出している。

光文社、平成23年(2011)9月

「方言コスプレ」の時代〜ニセ関西弁から龍馬語まで

田中ゆかり

リアル方言ではなく、イメージとしての方言を遊び的に着脱する方言コスプレ現象を、意識調査とコンテンツメディア分析によって研究した本。リアルな本方言、ジモ方言、ニセ方言の使い分け、方言の価値の変遷、方言の流通史、コンテンツメディアにおける坂本龍馬の土佐弁キャラの研究、メディアの方言に対するスタンス、共通語と方言コスプレの関係などを考察している。

岩波書店、平成23年(2011)9月

話すための英文法

小池直己

外国語を使ったコミュニケーションのためにも文法は当然必要であることから、話すために必要な英文法を体系的に習得できるように書かれたテキスト。5文型を基本に、否定・疑問・感嘆・時制・助動詞・受動態・不定詞・分詞・動名詞・関係詞・比較・仮定法など学校でも学ぶ基礎的な英文法を、コミュニケーションのために実践的に使える例文と解説によって学ぶことができる。

岩波ジュニア新書、平成23年(2011)9月

短歌のための文語文法入門

今野寿美

現代を代表する歌人による短歌のための文語文法入門。現代短歌においても文語を使う作者は少なくないが、使うならば正しい方法を知っておくべきという観点から書かれている。活用のある動詞・形容詞・形容動詞・助動詞の接続法に日本語文法の要があるとして、特に助動詞に重点を置いて書かれている。国語学者風の記述ではなく、エッセイの文体だが、文法の基礎知識がないと却って少々難しいだろう。

角川学芸出版、平成23年(2011)7月

英語を学ぶのは40歳からがいい〜3つの習慣で力がつく驚異の勉強法

菊間ひろみ

大人のための英語入門。強いられて英語を勉強している学生より、自発的に英語を学び、人生経験や教養がある大人の方が進歩の可能性が高いと指摘し、大人が英語を習得するコツを伝授する。受験用の勉強は有害だが、文法学習は必要。音読、多読、フレーズ暗記の3つの方法でまずインプットすることが肝心。ネイティブの自然な表現、発音を意識的に身に付けるなど、実践的な英語習得法を説いている。

幻冬舎新書、平成23年(2011)7月

受身と使役〜その意味規則を探る

高見健一

日本語と英語の受身と使役の仕組みと規則を研究した本。形式的な文法規則とは別に、意味規則が受身と使役の適格文と不適格文を決めているが、日本語の受身では状態変化制約と特徴付け制約の他に利害表明制約があること、英語の受身も(句動詞以外に)純粋な自動詞も使えること、英語の使役動詞 make、cause、get、have、letの整然たる制約など、日本語と英語の受身と使役の共通点と相違点がわかる。

開拓社、平成23年(2011)6月

古典日本語の世界(二)〜文字とことばのダイナミクス

東京大学教養学部国文漢文学部会編

東京大学教養学部の一・二年生向けのテーマ講義をもとに作成された本の続編。日本語は純一なものでも自然なものではなく、人工的で雑種的な言語であるとする原理論的な前著に対して、第2巻は応用編という趣。日本語における書記言語と口頭言語の関係、表現(作為)と自然(無作為)の関係というようなテーマを持った、日本語の人為的な制度性に焦点を据えた論が多い。前著と同様、平易に説かれている。

東京大学出版会、平成23年(2011)5月

曲り角の日本語

水谷静夫

半世紀以上辞書編纂に携わり、コンピューターによる数理的研究を導入したフロンティアでもある国語学者が、変わりつつある日本語の現状を観測し、さらに激変するであろう今後の変化を予測した本。時枝誠記の弟子なので詞と辞という用語を使い、辞の部分が大きく変化するであろうことを予測している。日本語の変化を不可避としつつ、戦後の国語改革や国語政策がどんなに間違っていたかを力説している。

岩波新書、平成23年(2011)4月

大学で教える英文法

畠山雄二編

大学生向けに9人の研究者が書いた英文法の本。見開きで1項目ずつ、100の文法項目を取り上げ、楽しく読めるように工夫して書かれている。高校までの英語をしっかり学んだ人にとっては、次のステップと言える文法解説が読める。高校レベルではここまで踏み込んでいないので、様々な発見と疑問に思っていたことが理解できる楽しみがある。英語を専門にするのでなければ、英文法はこれで十分のレベル。

くろしお出版、平成23年(2011)4月

言語力〜認知と意味の心理学

藤澤伸介

認知と言語をめぐって考察した心理学の本。主観的世界を形成する意味がどのような認知バイアスの作用を受けているかを、好悪や偏見や差別などの確証バイアスを中心に論じている。生物学的な観点も入れているにも関わらず、客観的というより、心理学者らしく愚かさを見下すバイアスによって書かれているきらいもある。「生きる力」を身に付けるために科学的リテラシーの訓練と読書の奨励を説いている。

新曜社、平成23年(2011)3月

英語構文を探求する

大庭幸男

学校英文法の基本5文型における特殊な構文、中間構文・結果構文・二重目的語構文・小節構文の意味的・統語的な特徴を多くの例文を示しながら考察した本。高校生・大学生・一般読者を対称にしているというが、例文は平易であるとは言え、生成文法の用語や理論操作が前提なしに登場するので、それらを知らずに読むと難解である。学校英文法を習得したレベルではなく、生成文法の基本は必要。

開拓社、平成23年(2011)3月

方言学

真田信治編著

方言学の泰斗真田信治を中心に、方言学を総合的に解説した12人の研究者による大学生向けテキスト。日本語ライブラリーの一冊。概論、各地方言の実態、社会と方言、方言研究の方法から成る。真田信治の提唱したネオ方言、言語としての方言、法廷における方言の臨床的課題など、最新の方言学のテーマが取り入れられている。方言学史も役に立つ。記述も平易で、方言学入門として絶好の書。

朝倉書店、平成23年(2011)3月

〈意味順〉英作文のすすめ

田地野彰

語順が比較的自由で助詞によって基本的な意味を表す日本語に対して、英語は基本的に語順によって意味を表し、主語の明示も必要になることを踏まえ、日本語話者が母語による負の転移を意識して英語を学ぶことを説いた初級レベルの英語文法論。7文型にまとめられる意味順の基本パターンをもとに、修飾の仕方、関係詞の使い方、疑問文、受動態、前置詞など語順と関係付けたアプローチから英語文法を学べる。

岩波ジュニア新書、平成23年(2011)3月

英語語法ライブラリ〜ペーパーバックが教えてくれた

柏野健次

ペーパーバックの文章を用例にして、生きた英語の語法を考察した本。語法・文法編、口語英語編、文化比較編の3部から成り、用例をデータベースで検索してその使用実態を検証し、生きた英語語法のレファランスとして使える。引用されている文章は基本的にわかりやすく、学校の文法では誤りとされてきた語法も意外と使用されていたり、表現の組み立てが日本語の発想とも共通したものが多いことも興味深い。

開拓社、平成23年(2011)3月

風土記の文字世界

瀬間正之

風土記をその文字使用などの書記形態や文章表現から考察した本。風土記の漢文の習熟度と和臭を分析し、漢語漢文で思惟し表現する、訓読的に思惟し漢語漢文の表現を志向する、日本語的に思惟し漢字を使うなどのレベルがあることを明らかにし、漢文に習熟している場合でも常陸が修辞的な漢文志向、豊後・肥前が実務的達意の漢文を志向していることなどを明らかにし、書き手の穿鑿などもしている。

笠間書院、平成23年(2011)2月

万葉仮名でよむ『万葉集』

石川九楊

万葉仮名で『万葉集』を読み解き、日本語と和歌の成立を推理した本。中国語の翻訳過程から日本語が徐々に生まれたとし、文字を重視する言語観に立って、万葉仮名が漢文体・漢文訓読体・準和歌体へと成熟するにつれて日本語が完成し、短歌形式も生まれたと主張、助詞はその過程で作られたと推測し、仮名の成立により発音も単純化したとする。万葉仮名の漢字の意味的・イメージ的効果を読み込んだ解釈は新鮮。

岩波書店、平成23年(2011)1月

英語と日本語のあいだ

菅原克也

2013年から高校の英語の授業に直説法を導入する政策決定に対して、日本語母語話者の英語学習は日本語を媒介にした文法・訳読の勉強によって「読む」力を身に付けることが正道と批判する英語教育論。安易なコミュニケーション英語重視や直説法の導入などの政策は逆に英語力の低下をもたらすと警告し、実際はコミュニケーションのためにもしっかりと文法・語法・文化を学ばなくてはならないと説く。

講談社現代新書、平成23年(2011)1月

話し言葉の日本史

野村剛史

古代から近代までの話し言葉の歴史を辿った本。近世以降の標準語の形成について、これまで書き言葉は標準語が成立していたとされていたが、著者は話し言葉においても上方・江戸をつなぐ標準語と意識される共通語が成立していたと推測し、近代標準語も(維新期に江戸山の手語は壊滅したので)東京山の手語が母体になったのではなく、逆に江戸期共通語が東京山の手語を生み出したという見方を示している。

吉川弘文館、平成23年(2011)1月

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