南丹日本語クラブ

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日本語教育おすすめ本 9

日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。

認知と言語〜日本語の世界・英語の世界

濱田英人

日本語と英語を認知言語学の観点から比較考察した本。日本語は知覚と認識が融合した対象密着的な場面内視点、英語はメタ認知的な客体的な場面外視点の傾向が強く、それぞれの文法もそうした認知的特徴から構築されていることを明らかにしている。「は」「が」もそのフレームで説明している点は対比や総記をどう繰り込めるのかという疑問が残るが、概ね日英語の認知的特性と文法を包括的に説明している名著。

開拓社、平成28年(2016)10月

日本語の謎を解く〜最新言語学Q&A

橋本陽介

独学で7ヶ国語を習得したという中国文学者が書いた日本語エッセイ。専門の日本語学者ではないのでオリジナルな知見はないが、日本語をめぐる様々な問題73トピックを取り上げ、諸説を自分なりに整理している。日本語を数年間勉強した場合に必ず逢着する疑問の数々を取り上げており、すっきりした整理と過不足のない解説をしていて、非常にわかりやすい日本語入門になっている。

新潮社、平成28年(2016)4月

琉球諸語と古代日本語〜日琉祖語の再建にむけて

田窪行則、ジョン・ホイットマン、平子達也編

日本語と唯一同系と証明されている琉球諸語の日琉共通祖語再建に関連する論文を集めた本。平成25年に京都大学で行なわれたワークショップ「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」をもとにしたもので、日本と外国の13人の研究者の論文を収める。トマ・ペラールの「日琉祖語の分岐年代」では、古墳時代ぐらいに分岐してから九州にいたグループが11〜2世紀に琉球に渉ってきたとする。

くろしお出版、平成28年(2016)4月

「人間らしさ」の言語学

織田哲司

英語学者が言語とは何かを考察した本。プラトンとアリストテレス、中世や近代の言語起源論、印欧比較言語学、構造主義言語学、変形生成文法と認知科学、言語相対論など様々な学説を辿り、人間であることと同じと言える言語の世界を論じている。時空を超え、現実を虚構や嘘によって超え、自然と数学的論理の中間の世界に生きる人間の面白さを感じさせてくれるエッセイになっている。

開拓社、平成28年(2016)3月

修辞的表現論〜認知と言葉の技巧

山梨正明

客体的な言語に対する論理的・形式的研究ではなく、表現主体の認知の過程と諸相との関連で言語を考察する認知言語学の立場から、日常言語や文学表現を研究した本。客観的叙述以外に、メタファーやアイロニーなどを駆使して、人間の内面、空想、可能世界等の主観的表現を行ない、聞き手に推論させる修辞的表現の機能を、ズーミングなどの認知プロセスの分析から明らかにしている。

開拓社、平成27年(2015)10月

ことばをめぐる諸問題〜言語学・日本語論への招待

松本克己

比較言語学・言語類型論において独走的な仕事をしている言語学者が、現代言語学の重要トピックを論じた論文集。比較言語学の教科書的な解説、著者が得意とする言語類型論、特に語順論などの論文を収めるが、第4部は「日本語・日本人のルーツを探る」と題して、昨今進歩著しい遺伝子人類学、遺伝子系統地理論を取り入れ、比較言語学・言語類型論と融合した日本語・日本人ルーツ論を展開している。

三省堂、平成27年(2015)3月

文法現象から捉える日本語

岸本秀樹

生成文法の立場から日本語の文法現象を、英語と比較しながらの類型論的な観点も入れつつ考察した本。これは容認されてこれは容認されないという日本語の文法現象を取り上げ、そこに働いている文法規則を説明するというオーソドックスなものだが、説明がわかりやすいものから、日本語教育に取り入れられそうにない複雑なものまである。文法現象を見ているだけでも、言葉が変化途上にあることがわかる。

開拓社、平成27年(2015)3月

言語理論としての語用論〜入門から総論まで

今井邦彦

生成文法の立場から語用論を解説した本。関連性理論・言語行為理論・グライス理論・新グライス派・認知言語学という5つの語用論理論を紹介し、それぞれの説の批判的検討を行なっている。とりわけ認知言語学は激しく批判している。語用論を単純に文脈に依拠した言語使用とは捉えず、生成文法的観点からの、言い換えれば自然科学的な観点からの文法論として捉えようとしている。

開拓社、平成27年(2015)3月

英語の素朴な疑問から本質へ〜文法を作る文法

小野隆啓

生成文法の立場から英文法を考察した本。個別言語の文法は普遍文法の原理と変数に基づくという理論から、疑問文の構造、動詞の項構造、名詞句の移動、代名詞の特性、多階層分析、時制と相、話題化などのテーマを立てて、高校までで学ぶレベルの英文法において誰もが抱く疑問を解き明かしている。普遍文法そのものに関して疑問があるとしても、生成文法の理論枠組の中ではわかりやすいものになっている。

開拓社、平成27年(2015)3月

日本語の起源と古代日本語

京都大学文学研究科編

日本語起源論と古代日本語研究の本。平成24年に京大で開催された公開講座の単行本化。日本語起源論の2編、木田章義「日本語起源論の整理」、松本克己「私の日本語系統論」が断とつに面白く、特に言語類型地理論と遺伝子系統地理論を統合した松本論文は言語類型論による分析に遺伝子解析を重ね合わせ、人類の地理的展開と言語の展開をかなりの程度明らかにし、従来の通念を科学的に覆している。

臨川書店、平成27年(2015)3月

日韓漢文訓読研究

藤本幸夫編

古代チャイナの文字言語を周辺諸国が漢文として受容する際に、自国語のシンタクスによって読むように工夫した方法、いわゆる訓読法について、小林芳規をはじめとする日韓16人の研究者が、典籍類や木簡、角筆資料などから、日本と朝鮮半島そしてウイグルの例を研究した論文集。確証はないとしつつ、漢文訓読法は当時の先進文明の朝鮮半島に起源を有し、百済や新羅から日本に伝わったものとしている。

勉誠出版、平成26年(2014)11月

文法化する英語

保坂道雄

英語における文法化について研究した本。文法化とは自立語が文法的な役割を担う文法語や接辞となる現象を言うが、冠詞、形式主語、助動詞などの文法化現象が古英語・中英語・近代英語・現代英語のどの段階で起こったかを文法史的に研究している。格変化の減少が主語の義務化や語順の固定化につながったと正当に指摘しているが、全体に英語を規範とする生成文法的バイアスがかかっているようにも見える。

開拓社、平成26年(2014)10月

ディベートが苦手、だから日本人はすごい

榎本博明

日本人のコミュニケーションの文化的価値観と振る舞いと言語表現を、欧米や中国などと比較しながら考察した本。日本人は対立を回避し、敗者を作らず、自己主張を控えて、タテマエを使いこなして和を図ろうとする。ディベートが下手なのも文化的要請による。欧米や中国などはこれと正反対の世界である。これまで否定的に捉えられてきた日本的コミュニケーションを評価し、国際社会に拡げることの意義を説く。

朝日新書、平成26年(2014)6月

ことばの仕組みから学ぶ和文英訳のコツ

畠山雄二編

言語学的な知識を踏まえて英語を日本語に翻訳するコツを伝授した本。畠山雄二・田中江扶・谷口一美・秋田喜美・本田謙介・内田聖二・成瀬由紀雄が担当し、生成文法、認知言語学、日本語文法、語用論に基づく和文英訳のコツ、そしてビジネス文書や文学の翻訳などの実務翻訳のコツから成る。特に難しいことは書かれておらず、しっかりした文法書に加えて本書があれば、一般的なレベルの英語の知識は完備する。

開拓社、平成26年(2014)6月

言語起源論の系譜

互盛央

ヨーロッパにおける言語起源論の系譜をプラトンからチョムスキーまで辿った本。祖国の正統性を根拠付けるための「起源の言語」探しから、近代において人間を根拠付けようとする「言語の起源」探しになり、それが社会契約論や一般意志論などと重なり合って政治化しながら、ソシュールに到って言語は起源を問えないものとなり、チョムスキーで言語が生得的な本能とされるまでを跡付けている。

講談社、平成26年(2014)5月

新英文法概説

山岡洋

大学生向けに、文中での機能から英文法を解説した本。学校英文法の5文型ではなく、主部・述部・修飾部の構造から説明し、品詞も主部・述部の機能から説明している。生成文法の成果を踏まえているが、難解なところはなく、平易な例文を使い、日本語文法の概説書に近いレベルで文法用語と文法の説明を徹底的にやっているのが特徴(実際、英文法と日本語文法を対照している)。文法好きには楽しめる一冊。

開拓社、平成26年(2014)5月

思考訓練の場としての漢文解析

市川久善

漢文を英文法の知識を参照して学ぶというメソッドを提起した受験参考書。日本の漢文の読み方は古人が外国語である漢文を日本文のように読むように工夫したものだが、文法的な読解としては無理があるとして、英文法の知識を参照枠にして、漢文の正しい文法を踏まえた読解法を教える。漢文がわかる名著だが、漢文学習とは実は古典日本語を学ぶものという点からはその本旨を無意味化するものともなっている。

育文社、平成26年(2014)4月

驚くべき日本語

ロジャー・パルバース著/早川敦子訳

母語の英語を含めて露・ポーランド・日本語の4カ国を自由に操り、日本語はネイティブと変わりないというアメリカ出身のライター・翻訳家が日本語を論じた本。日本語に日本文化の反映を見つつ、日本語は日本人しかわからない特殊な言語ではなく、話し言葉としてはむしろ学びやすい言語だとする。さらに、その自在さ、使い勝手の良さから日本語はリンガ・フランカ(世界語)としての役割を担い得るとする。

集英社、平成26年(2014)1月

タテ書きはことばの景色をつくる〜タテヨコふたつの日本語がなぜ必要か?

熊谷高幸

今や日本語と台湾語にのみ生き残っているタテ書きとはどのようなものかを、ヨコ書きとの比較において考察した認知心理学の本。ヨコ書きは序列的で論理的、ヨコ書きは並列的で全体把握的という認知的特徴があり、タテ書きは文脈や意図を汲み取りやすいという。タテ書きの消滅は日本人の認知の世界を失うことであり、決して消滅させてはならず、ヨコ書きとの併用を続けることを提言している。

新曜社、平成25年(2013)10月

英語定型表現研究〜歴史・方法・実践

八木克正・井上亜依

イディオムのような英語定型表現、句を研究対象としたフレイジオロジーの本。フレイジオロジーの理論、研究史、実例による研究から成る。語を単位とした統語論では説明できない句単位の英語定型表現を、認知言語学的なアプローチと、外国語として英語を研究してきた日本の英語学の蓄積に基づいて、解明しようとしている。定型表現はひとまとまりの意味論的単位として捉えられることがわかる。

開拓社、平成25年(2013)10月

ことばを読む、心を読む〜認知語用論入門

内田聖二

関連性理論の枠組で用いられる学問的呼称である認知語用論の入門書。ことばは字義通りの統語的意味だけではなく、文脈、人間関係、視点、文化などによって解釈が様々に異なってくるが、関連性理論の知見を援用して、表意と推意、メタ表象、修辞表現、テクスト解釈などを、日本語と英語の文やテキストを例に、考察している。認知言語学らしく、議論そのものは難しくはない。

開拓社、平成25年(2013)10月

知覚と行為の認知言語学〜「私」は自分の外にある

本多啓

日本語と英語を対象に、生態心理学の観点を取り入れて考察した認知言語学の本。言葉の意味の基盤を日常的な経験の仕方に求める認知言語学の観点から、様々な言語の問題を論じている。言葉に知覚の経験が様々な形で反映していることをテーマにし、中心的な論点は、「視点」による相対性が言葉に反映されていること、言い換えれば、世界を語ることは同時に自己を語ることであるという点に収斂される。

開拓社、平成25年(2013)8月

英文法の楽園〜日本人の知らない105の秘密

里中哲彦

英文法の知識を見開き2ページで解説したコラム集の続編。新聞連載時に寄せられた英文法についての105の質問に回答するという形で、英語学習者の疑問に応える、学校英文法の枠を一歩踏み出す英文法の魅力を伝える。杓子定規の文法ではなく、ネイティブがよく使っている表現、また許容できる表現までを解説している。高校レベルの文法知識は必要だが、読物としても面白い。

中公新書、平成25年(2013)8月

言霊とは何か〜古代日本人の信仰を読み解く

佐佐木隆

古代の言霊という概念について、文献に即して考察した本。『古事記』『日本書紀』『風土記』『万葉集』などから、言霊はあくまで神との関連における概念であり、その意味ではアニミズムを脱していた古代人の信仰の世界を明らかにしている。そして、現代でも流通している言葉の威力としての言霊観は、契沖や真淵は弁えていたが、その後の近世の国粋主義者の理解(誤解)から作られたものとする。

中公新書、平成25年(2013)8月

言語学の教室〜哲学者と学ぶ認知言語学

西村義樹、野矢茂樹

哲学者野矢茂樹が、認知言語学について、専門家である西村義樹と語った本。専門家ではない野矢のすぐれた質問によって専門家同士ならスルーされる問題点が明らかにされていくことによって、認知言語学の世界を知るのにもっともすぐれた入門書となっている。野矢が西村にぐいぐい迫り、西村が押されつつも専門的な見地から押し切られずに踏み止まって議論を深めていく、緊張感にあふれた問答が素晴らしい。

中公新書、平成25年(2013)5月

英語接辞の魅力〜語彙力を高める単語のメカニズム

西川盛雄

英単語の語構成の仕組みと語源をよく知ることで、英語の世界をさらに深く知ろうとした本。特に英語の接辞(接頭辞と接尾辞)に焦点を当て、英単語の生産の秘密に迫る。オノマトペよりできた接辞なども興味深い。英語が雑種言語であるがゆえの語の無尽蔵の生産性の高さという点では、日本語とも似ていることがわかる。整理された内容と知的な語り口が相俟って、タイトル通り魅力的な一冊。

開拓社、平成25年(2013)6月

ことばで考える〜ことばがなければものもない

安井稔

70年以上に亙って英語・言語を研究してきた、本書刊行時90歳を超える英語学者の論文とエッセイをまとめた本。思考と言語の深い関係を考察した論文、専門家から見た批判的現代英語教育論の他、フロー理論に関するエッセイ、自分の人生の略伝や著書一覧などを収録している。日本語のオノマトペは日本語が英語のように抽象度が高くなく、自然に密着していることを示すものとしている。

開拓社、平成25年(2013)3月

「つながり」の進化生物学〜はじまりは、歌だった

岡ノ谷一夫

言語の起源を動物の行動から研究している著者が、コミュニケーションをテーマに、高校生16人に行った連続講義。意識や言語がなぜ生まれたのか、人間以外の生物に意識や言語はあるか、コミュニケーションは何のためにあるのかなどを考えている。進化生物学的に見て、高度に発達した人間の意識や言語が適応的と言えるかはわからない(副産物として発生した前適応の状態かもしれない)としているのが面白い。

朝日出版社、平成25年(2013)1月

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