日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。
英語が堪能な小説家による日本語と英語の表現を比較考察した本。著者には英語は論理的で主語がはっきりした責任の所在を明確にした言語、日本語はそうではないからダメという前提があり、その価値観に合わせて例題を選択し、論じている。源氏物語はわからないが、現代の英語で翻訳したもので読むとよくわかるとか(それなら現代日本語に翻訳したものと比較すべき)、無媒介な議論が散見される。
マンガ対訳本の英語をコーパスにして日英語表現を対照した本。詳しい文法の解説はなく、タイトルにマンガを冠しているが、著作権の事情で文(ふきだしのせりふ)のみの日英語表現が大量に羅列されているだけだが、庶民の日常表現であるマンガの日本語に対応した英語を学ぶことができ、たとえば「ね」「よ」に相当する英語表現のような、この日本語を英語ならどう言うのかという問いに応えてくれる本である。
対照言語学的に英語と日本語を一緒に学べる本。英語と日本語の似ているところと違うところを検討しながら、中学・高校生には学校英文法と学校国文法を連携させて学ばせることが英語学習にとっても国語学習にとっても有効であることを説く。古典文法まで対照しているところが特徴。国語学や日本語教育と英文法を学んだ人が自然に抱く問題意識が整理されており、国語教師・英語教師・日本語教師に必読の一冊。
現代日本語が形成された明治中期の日本語の、特に書きことばのあり方を、字体、語形、漢字や仮名文字の使い方などに関して、漱石の手書き原稿や印刷や辞書などから探った本。前近代との連続性の相においては多様な日本語の形があったが、近代国家の意志として一元的な日本語へと変化して行ったことに断絶の相を見ている。そして、表記を固定する意志が近代の日本語を特徴付けていると指摘している。
名著『トルコのもう一つの顔』で知られる言語学者・民族学者が、フランス人などに日本語を教える経験から構築した日本語文法の本。日本語文法体系を新たに作り直しているとまでは行かないが、著者の知るいくつかの言語と比較し、日本語そのものに根ざした山田・松下・三上などの文法に学びつつ、日本語の現象を文法的に説明するために独自の用語を創設して著者なりに再構築した、小島文法になっている。
ヘーゲルの翻訳で知られる哲学者による言語論。昭和53年に勁草書房から刊行され、平成9年に新装版として出たものの文庫化。言語の根拠を共同存在としての人間の言語場に置き、ラングとして疎外される言語の規範的側面と主体的、自由な表現的側面とから考察を加えている。宗教、詩、日常の話し言葉、書き言葉などに分けて、言葉の機能と存在論的意味がわかりやすく説明されている。
昨今の英会話中心やネイティブの感覚重視の英語教育に異議を唱え、しっかりした文法を習得せずに英語の上達はないという前提から、中学レベルの英文法を、文の形に沿って体系的に教える英文法入門。対象の範囲を確定し、形によって分類したものを学ぶ効果が如実にわかる.英語そのものの入門レベルではなく、ある程度のレベルの英語を勉強している人が文法を整理するのに良い。
日本語の助詞のように、英語の勘所とも言える前置詞について、豊富な例文とともにその複雑な意味を中核的意味と派生的意味と、さらに慣用句(句動詞・群前置詞)に分けて、教授する本。日本語の助詞と同様、ネイティブには直感的なものとして与えられている前置詞の意味論的使い分けを体得することはやはり難しいが、大量の例文をこなしているうちにイメージのカテゴリーが少しずつ見えてくる。
英文法の知識を見開き2ページで解説したコラム集。新聞連載時に寄せられた英文法についての105の質問を、語源・語彙・語感・語法・語義・誤解の6つのカテゴリーに分けて回答している。レベルは基本的なもので難しくないが、英語圏で実際に使われている表現と日本人が知識として持っているもの、特に学校文法とのギャップを埋めるものになっていて、日頃疑問に思っていることが氷解する楽しさがある。
日本人のホンネとタテマエの二重構造を言葉のコミュニケーションの観点から分析した本。タテマエ一点張り、論理偏重の抑圧的文化の西洋人に対し、実は日本人はホンネを理解しており、個人の論理より状況に依存し、他人のことを察しながら論理よりも感情的な合意を優先し、安定した秩序を生み出す。状況依存は無責任の弊害を生み得るが、日本的合意のメリットを国際社会に生かす道を探すべきとも述べる。
語彙意味論・構文理論を組み合わせた英文法の理論書。句構造パターンを、動詞をその意味に基づいて主語・目的語をいくつ取るかという関数と見做して解くアプローチと、動詞の意味ではなく公式(構文)から解くアプローチの両面から説明し、さらに語用論のメタ表示を加えて、英文法の根本を説明する。日英語を対照しながら説明を進め、かなりのところまで普遍的に通用する理論を提示している。
21世紀に入り、フィンランドでは日本のポップカルチャーが人気になり、日本側もデザイン分野などでフィンランドに関心を強めている。そうしたフィンランドにおける日本語学習、日本語・日本文化研究の現状について、日本語もしくは文化的・経済的・政治的等で日本と関わりのあるフィンランド人のインタビューから報告した本。フィンランドにおける日本語教育、日フィン関係の歴史と現状が理解できる。
1990年代から出版界において大きな市場を占めるようになったライトノベルの表現を、場交渉論に基づいた談話分析によって研究した本。ライトノベルの文体を会話体文章と名付け、その表現を、若者たちが単一の主体を背負わず、データベースの役割を演じることで適応している後期ポストモダンの文化・社会の環境に位置付けて読み解いている。社会言語学、さらに社会学的な要素も強い内容になっている。
アマゾンに暮らす先住民ピダハンの言語を研究した本。SILの一員として聖書の伝道とそのための言語の研究にピダハンと暮らすことになった著者が、直接体験の原則に従っている即物的で非構築的なピダハンの生き方を知るにつれ、チョムスキーの言語理論に疑問を持って言語本能より文化を重視する立場に転じ、環境に適応しているピダハンを見てキリスト教信仰も捨てるに到った経緯を率直に叙述した名著。
学校英文法を基礎に、学習者が次のステップに行くための文法事項を、ジョークという英語の感覚を磨く格好の手段になる例文を使って解説した本。ジョークは英語が本質的に持つ両義的な読みの可能性を利用していることが多く、学校ではそうした英語の曖昧さを捨象して学ばなかったが、実はそこに学習者の戸惑いの一端があったことがよくわかる。ネクサスなどの専門的な文法用語に少しずつ親しむこともできる。
頻出問題から応用範囲が広いという基準で選んだ50文をテキストに英文解釈を学べる本。先生と生徒の対話形式で、まず生徒が訳し、その問題点を検討しながら先生が訳すという構成で、全体の流れの把握、省略や挿入、英文の雰囲気を日本語訳に反映させる、知らない単語の対処法などの観点から英文解釈を学べる。高校生レベルだが、内容的にも味わい深い文章が選ばれており、大人の学習にも適している。
オンライン学習プログラム「英語便」の英文添削を単行本化したもの。課題、受講者が提出した英文、ネイティブスピーカー講師による添削文と解説、さらにその課題で講師が書き下ろした模範文という構成。ネイティブ英語使用者にとっての「自然な語感を伝える」ことに焦点を置いているが、たしかに受講者の英文が学校文法的で佶屈しがちなのに対して、講師の模範文は日本人が読んでもシンプルで読み易い。
室町時代末期の特殊音素の音韻とそれに対応する仮名表記を研究した本。中世日本語は恐らく中国語の漢字の発音の影響で促音・撥音・長音をアクセントの単位としないシラビーム構造だったのが、この時期にそれらを単位とするモーラ構造に変化したという推移の過程を、キリシタン資料や豊臣秀吉ら武将の消息などの分析から解明する。日本語教師から日本語学の研究に入った人ならではの関心の持ち方が伺える。
古代の日本語・中国語・韓国語の研究から日本書紀を読み解いた本。平成11年に中公新書から出た『日本書紀の謎を解く』以降の関連論文を集めたもので、日本書紀から正格漢文と倭臭のある漢文を分類し、誰が書いたのか、後から書き換えられた場合になぜそのタイミングにその内容なのかを明らかにする。また、最終的に藤原不比等が国家の正統史観を確立するために完成させたとする。
教育心理学・障害児心理学の専門家が日本語を考察した本。共同注視を生み出す三項関係が日本語の文法構造の基礎であるとし、感覚的現実を話し手と聞き手の共有の映像としてそのウチからの視点に依拠して世界を認識し、言語化する日本語の特質を明らかにしている。対するに英語はすべてを外部化した客観的で抽象的論理の言語ということになる。認知言語学に発達的視点を加味した理論になっている。
心的辞書(メンタル・レキシコン)の働きについて研究した語彙意味論・語形成論の本。レキシコンは単語の静的な貯蔵庫ではなく、語の文法を内蔵し、語の意味や性質、話者の経験などいくつかの要素の方程式的な規則の組み合わせによって、語の文法的許容度を決め、新語を生産し、解釈をする生産的でダイナミックなものであることを明らかにし、文法がいかに働いているかに迫るアルゴリズムを提示している。
ブルガリア出身の日本古典文学研究者による和歌文学論。心が曖昧な自然や人事の現象を日本語の特質を活かして詠むことで成立する和歌の世界を、日本語に即して考察する。音節数の少ない界音節言語である日本語は、同音異義語さらには同字異義語が多いことから掛詞という修辞法を中心に詩の言語を発達させ、美的に世界認識を表現してきたと喝破し、重層的な和歌の世界を見事に読み解いている。
現代の大手出版社辞書編集部を舞台に、辞書『大渡海』を作るために生まれたきたような主人公と彼を取り巻く人々が人生を辞書にかける姿を描いた小説。表題は辞書を言葉の海を行く舟に喩えたもので、イメージ的には『大言海』を踏まえているのだろう。ラブストーリーなども絡めながら、編集部に配属された現代っ子の出版人たちが辞書作りにのめり込んでいく姿を、生き生きと描き出している。
リアル方言ではなく、イメージとしての方言を遊び的に着脱する方言コスプレ現象を、意識調査とコンテンツメディア分析によって研究した本。リアルな本方言、ジモ方言、ニセ方言の使い分け、方言の価値の変遷、方言の流通史、コンテンツメディアにおける坂本龍馬の土佐弁キャラの研究、メディアの方言に対するスタンス、共通語と方言コスプレの関係などを考察している。
外国語を使ったコミュニケーションのためにも文法は当然必要であることから、話すために必要な英文法を体系的に習得できるように書かれたテキスト。5文型を基本に、否定・疑問・感嘆・時制・助動詞・受動態・不定詞・分詞・動名詞・関係詞・比較・仮定法など学校でも学ぶ基礎的な英文法を、コミュニケーションのために実践的に使える例文と解説によって学ぶことができる。
現代を代表する歌人による短歌のための文語文法入門。現代短歌においても文語を使う作者は少なくないが、使うならば正しい方法を知っておくべきという観点から書かれている。活用のある動詞・形容詞・形容動詞・助動詞の接続法に日本語文法の要があるとして、特に助動詞に重点を置いて書かれている。国語学者風の記述ではなく、エッセイの文体だが、文法の基礎知識がないと却って少々難しいだろう。
大人のための英語入門。強いられて英語を勉強している学生より、自発的に英語を学び、人生経験や教養がある大人の方が進歩の可能性が高いと指摘し、大人が英語を習得するコツを伝授する。受験用の勉強は有害だが、文法学習は必要。音読、多読、フレーズ暗記の3つの方法でまずインプットすることが肝心。ネイティブの自然な表現、発音を意識的に身に付けるなど、実践的な英語習得法を説いている。
日本語と英語の受身と使役の仕組みと規則を研究した本。形式的な文法規則とは別に、意味規則が受身と使役の適格文と不適格文を決めているが、日本語の受身では状態変化制約と特徴付け制約の他に利害表明制約があること、英語の受身も(句動詞以外に)純粋な自動詞も使えること、英語の使役動詞 make、cause、get、have、letの整然たる制約など、日本語と英語の受身と使役の共通点と相違点がわかる。
東京大学教養学部の一・二年生向けのテーマ講義をもとに作成された本の続編。日本語は純一なものでも自然なものではなく、人工的で雑種的な言語であるとする原理論的な前著に対して、第2巻は応用編という趣。日本語における書記言語と口頭言語の関係、表現(作為)と自然(無作為)の関係というようなテーマを持った、日本語の人為的な制度性に焦点を据えた論が多い。前著と同様、平易に説かれている。
半世紀以上辞書編纂に携わり、コンピューターによる数理的研究を導入したフロンティアでもある国語学者が、変わりつつある日本語の現状を観測し、さらに激変するであろう今後の変化を予測した本。時枝誠記の弟子なので詞と辞という用語を使い、辞の部分が大きく変化するであろうことを予測している。日本語の変化を不可避としつつ、戦後の国語改革や国語政策がどんなに間違っていたかを力説している。
大学生向けに9人の研究者が書いた英文法の本。見開きで1項目ずつ、100の文法項目を取り上げ、楽しく読めるように工夫して書かれている。高校までの英語をしっかり学んだ人にとっては、次のステップと言える文法解説が読める。高校レベルではここまで踏み込んでいないので、様々な発見と疑問に思っていたことが理解できる楽しみがある。英語を専門にするのでなければ、英文法はこれで十分のレベル。
認知と言語をめぐって考察した心理学の本。主観的世界を形成する意味がどのような認知バイアスの作用を受けているかを、好悪や偏見や差別などの確証バイアスを中心に論じている。生物学的な観点も入れているにも関わらず、客観的というより、心理学者らしく愚かさを見下すバイアスによって書かれているきらいもある。「生きる力」を身に付けるために科学的リテラシーの訓練と読書の奨励を説いている。
学校英文法の基本5文型における特殊な構文、中間構文・結果構文・二重目的語構文・小節構文の意味的・統語的な特徴を多くの例文を示しながら考察した本。高校生・大学生・一般読者を対称にしているというが、例文は平易であるとは言え、生成文法の用語や理論操作が前提なしに登場するので、それらを知らずに読むと難解である。学校英文法を習得したレベルではなく、生成文法の基本は必要。
方言学の泰斗真田信治を中心に、方言学を総合的に解説した12人の研究者による大学生向けテキスト。日本語ライブラリーの一冊。概論、各地方言の実態、社会と方言、方言研究の方法から成る。真田信治の提唱したネオ方言、言語としての方言、法廷における方言の臨床的課題など、最新の方言学のテーマが取り入れられている。方言学史も役に立つ。記述も平易で、方言学入門として絶好の書。
語順が比較的自由で助詞によって基本的な意味を表す日本語に対して、英語は基本的に語順によって意味を表し、主語の明示も必要になることを踏まえ、日本語話者が母語による負の転移を意識して英語を学ぶことを説いた初級レベルの英語文法論。7文型にまとめられる意味順の基本パターンをもとに、修飾の仕方、関係詞の使い方、疑問文、受動態、前置詞など語順と関係付けたアプローチから英語文法を学べる。
ペーパーバックの文章を用例にして、生きた英語の語法を考察した本。語法・文法編、口語英語編、文化比較編の3部から成り、用例をデータベースで検索してその使用実態を検証し、生きた英語語法のレファランスとして使える。引用されている文章は基本的にわかりやすく、学校の文法では誤りとされてきた語法も意外と使用されていたり、表現の組み立てが日本語の発想とも共通したものが多いことも興味深い。
風土記をその文字使用などの書記形態や文章表現から考察した本。風土記の漢文の習熟度と和臭を分析し、漢語漢文で思惟し表現する、訓読的に思惟し漢語漢文の表現を志向する、日本語的に思惟し漢字を使うなどのレベルがあることを明らかにし、漢文に習熟している場合でも常陸が修辞的な漢文志向、豊後・肥前が実務的達意の漢文を志向していることなどを明らかにし、書き手の穿鑿などもしている。
万葉仮名で『万葉集』を読み解き、日本語と和歌の成立を推理した本。中国語の翻訳過程から日本語が徐々に生まれたとし、文字を重視する言語観に立って、万葉仮名が漢文体・漢文訓読体・準和歌体へと成熟するにつれて日本語が完成し、短歌形式も生まれたと主張、助詞はその過程で作られたと推測し、仮名の成立により発音も単純化したとする。万葉仮名の漢字の意味的・イメージ的効果を読み込んだ解釈は新鮮。
2013年から高校の英語の授業に直説法を導入する政策決定に対して、日本語母語話者の英語学習は日本語を媒介にした文法・訳読の勉強によって「読む」力を身に付けることが正道と批判する英語教育論。安易なコミュニケーション英語重視や直説法の導入などの政策は逆に英語力の低下をもたらすと警告し、実際はコミュニケーションのためにもしっかりと文法・語法・文化を学ばなくてはならないと説く。
古代から近代までの話し言葉の歴史を辿った本。近世以降の標準語の形成について、これまで書き言葉は標準語が成立していたとされていたが、著者は話し言葉においても上方・江戸をつなぐ標準語と意識される共通語が成立していたと推測し、近代標準語も(維新期に江戸山の手語は壊滅したので)東京山の手語が母体になったのではなく、逆に江戸期共通語が東京山の手語を生み出したという見方を示している。
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言語と認知の関係を考察した本。サピア=ウォーフの仮説で知られる言語相対論と言語生得説の生成文法派の対立をテーマにして、色彩の知覚、空間把握、言語における性別を取り上げ、言語(母語)は感覚を変えるわけではなく、抽象的推論能力を歪めるわけでもないが、心の習慣を形成して認知・記憶・連想などに影響を与えるとし、言語による文化の固有性を支持する。普遍文法の無理な普遍化も批判している。