日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。
昭和56年に中央公論社から出た『日本語の世界9 沖縄の言葉』の文庫版。沖縄出身の碩学が、沖縄の言語・歴史・文学に関する学問的成果を一般向けに書いたもの。古くに分岐して独自の発展をしてきた琉球方言と本土方言の対応の研究は日本語史として興味深い。沖縄が近代化において目指したものと失ったものというテーマが常に響いており、穏やかな語り口の中に問題意識が散りばめられている。
平安時代に六語あった時の助動詞が江戸時代に「た」一語になるまでの変遷を主に和歌を素材に辿りながら、語法の消滅によって失われていった表現を探っている。古文に時間に習った「けり」などの基本的な語の解釈が、実は学問的には必ずしも確定しているわけではないことがわかり、興味をそそられる。最終章は、主格・対象格としての解釈に揺らぎを抱える現代日本語の格助詞「が」についての考察を収める。
アイヌ、在日朝鮮人、様々なニューカマー、沖縄のアメラジアンなど日本語以外の言語を母語・継承語とするマイノリティの子供たちに対するバイリンガル教育の現状と課題を考察した本。マイノリティに対して同化を基本としている日本の教育政策を批判し、マイノリティの民族的アイデンティティを尊重してマイノリティの子供たちがバイリンガル・バイカルチュラルとして成長できる多文化教育を提唱している。
大阪YWCA日本語教師会が、ボランティアが外国人に日本語・日本文化・日本での暮らし方までを教え、色々な相談にも対応するためのハンドブックとして作成したもの。国際化時代の日本人としての心構えも説いている。
地域における市民による日本語支援というテーマの教科書としては最良の一冊。日本語文法や日本語教授法の入門書にもなっている。
アジアおよび日本語教育が盛んなオーストラリアにおける日本語教育の歴史と現状と課題を述べた論文集。
これまでの翻訳文化的な発想を転換して日本語を世界に向けて発信すべきという問題提起をすると共に、日本企業で働きたい日本語学習者をいかに支援し、またこれから日本語学習者をいかに増やして行くかという日本語教育についての政策提言も行なっている。
初級で教える文法事項を、それぞれ「これだけは」「もう少し」「もう一歩進んでみると」の3段階に分けて解説した日本語教師用ハンドブック。問題が的確に把握されているのがわかる過不足のない解説で、「もう一歩進んでみると」では研究案内と参考文献が付き、関心のあるテーマについてさらに勉強を深められるガイドにもなっている。巻末に主要教科書との対応表が付いている。
国語(日本語)を唯一の教育言語とする国民教育の理念と制度を批判した本。外国人の子供に国民教育の枠組で対応し、日本語・日本文化への適応を強いることをマイノリティに対する奪文化化であるとして、マイノリティの母語・母文化を尊重する多文化教育(脱国民教育)を提唱している。外国人の子供には日本語だけではなく母語による学習も必要であるという論点は、学力の発達保障という観点から首肯できる。
沖縄における標準語の役割を果たしていた首里ことばを、標準語と比較しながら、主に文法と発音の面から研究した本。一般に標準語(政治的中央語)は言語的にレベルが高いという偏見が持たれがちだが、言語学的には別にそういうことはない。首里ことばに残る係り結びの用法の分析を通して、法に関しては動詞が法を表わす要素を備えている沖縄本島方言の方が標準語より優れているという指摘は非常に興味深い。
日本語文法の基本的項目と、現時点での日本語文法にまつわる問題点、論争点までを網羅的に扱っている日本語専攻者向け教科書。
国文法・学校文法と比較しながら解説されているので、日本語文法と国文法とを対比しながらそれぞれの違う部分と共通する部分を確認し、日本語・国語の文法の体系を整理して理解するのに役立つ。
生成文法がどういうことを考えているかを、これ以上はないだろうと思えるほど平易に解説した本。権威ぶらない町田節で、楽屋裏も見せながら生成文法の40年の歴史を跡付け、生成文法に釈然としなかった人にも(その欠陥も含めて)理解できるようになる。標準理論以後の変転した諸理論はやはり難しいが、結局のところ生成文法の核心は文の構造の規則の研究にあることがわかる。
明治・大正・昭和に生きた根本通明・中島撫山・中野逍遥・中村敬宇・桂湖南・小柳司気太・宮島大八・簡野道明という八人の漢学者たちの伝記。学識もさることながら、時流に阿らず自分の信じるところに生きた漢学者たちの生き方は極めて魅力的で、個性的である。日本の近代を見る上で、こういう人々が漢学の先生として全国にいたことを見落としてはいけないだろう。近代日本における漢学の概説も付す。
日本語教育における日本事情とは外国人が異文化としての日本を学ぶ科目であるが、その目的を外国人の日本社会への受身の適応だけではなく、社会のメンバーとして主体的に参加していくことを目的とした学習であるべきという視点からアプローチした本。ステレオタイプのイメージや単なる客観的知識ではなく、外国人が現実の日本社会や日本人を知るための日本事情とはいかにあるべきかを問うている。
日本人は、先進的な外国に対して、外国への同化と自己改造という「自己植民地化」の精神構造で臨んできた。英語教育もそうした精神構造によって行なわれてきたが、大国の一つとなった現在の日本にとって必要なのは、日本人が自分自身を表現する発信型の英語教育である、と提言した本。
盲目的な外国語信仰ではなく、外国語習得の目的を明確にした上での合理的な教育システムの必要を説いている。
漢字の誕生と形成と構造を論じた文字学の本。文字とは何かから説き起こし、人類の自生語として現在も生命を持っている漢字の歴史と魅力を跡付け、六書(六義)説などに依りながら漢字の原理を考察していく。基礎語彙の考察を行なっていて、儒教の核心である「仁」字が妊婦が胎児の無事と安全を願い思いやる意味に由来するという説は面白い。漢字を知り、中国人の発想を理解するのに役に立つ一冊。
副題に「ことばの獲得と教育」とあるように、言語の獲得過程に焦点を当てた発達心理学のテキスト。言語は生物学的・認知的な内部要因と環境要因の複合として獲得されるが、乳児の段階から生活言語・学習言語を獲得し、自己や他者や世界との関係を物語として構築するに至る主体形成の過程を包括的に記述し、国語教育・外国語教育・バイリンガルなど日本語教育学にとっても基礎的な知識を提供している。
昭和34年に出た20世紀日本を代表する言語学者による日本語系統論の名著の文庫版。関連する論文や書評など12篇を収め、同系が明らかな琉球方言・奄美群島方言の考察を中心に、アイヌ語・朝鮮語・アルタイ諸語と日本語の比較研究を行なっている。音韻法則の対応や言語年代学を基礎とした厳密な学問的態度による仮説や推論は、半世紀以上の歳月を越えて基本的な部分において全く色褪せていない。
漢文訓読という外国語学習法を持つ日本人は、西洋語に対しても欧文訓読という方法を採用していた時代があった。本書は江戸時代のオランダ語、幕末・明治時代の英語における欧文訓読の語法や措辞の研究を通して、日本語の中に無生物主語・人称代名詞・関係代名詞・受動態・接続関係などを用いた欧文脈が形成され、日本人の思考と表現に根を下ろして近代日本語の文体が成立していく過程を辿る。
主に小学校における入国児童生徒への日本語教育の現状・問題点・対策を、教育学・言語学・心理学・社会学などの知見に基づいて、具体的な事例を紹介しながら包括的に概説したもの。
内容は学術的だが、年齢別に対応した指導法、また異文化摩擦を踏まえた指導法を具体的に解説していて、子供に対する日本語教育の理論と実践にとって非常に役に立つ。
日本語の理解力と表現力を磨くための練習問題集。似た単語の意味の違い、日本語の難問とされる「ハ」と「ガ」をめぐる文法論、敬語の使い方など、現代の日本語学における諸問題を学びながら、日本語の能力を磨けるように構成されている。問題集であるが、文章を無駄なく的確に書く文章読本としての性格も備え、語感の確かさと相俟ったエレガントな文章で楽しく読める。
一般読者向けに書かれた言語学入門。言語学にはどんな分野があり、それぞれどんなことを考えているのか、また自動翻訳機の可能性や外国語上達法やフランス語は本当に美しいかなど普通の人が興味を持っているであろう言語学的テーマのいくつかを取り上げ、言語学のポイントをわかりやすく解説している。助詞「は・が」の話など相当高度な内容にも踏み込んでいるが、軽妙な語り口で楽しく読める。
上古以来の可能の助動詞の歴史的変化の検証から、「ら抜きことば」の必然性を論証しようとする日本語史の試み。「ら抜きことば」という微視的な問題を日本語の体系の変化のメカニズムという巨視的な視点から解明し、保守的国語観を批判して、常に変化している状態こそ日本語の実態であると説く。日本語の動態を捉えることで、古典語を現在的なものとして身近に感じさせる文法論になっている。
日本文学研究の第一人者が日本の社会や文化について書いたエッセイ。1980年代にリーダーズ・ダイジェスト誌日本版に連載されたエッセイの原文と訳文を併記して書籍化したもの。日本の封建性を批判的に見るアメリカ人らしい進歩的リベラリズムと手放しの日本愛が混在した、ユーモアがあふれる日本体験記。難解な文章は使わず、語彙も平易、題材も日本文化なので、英文に馴染むのに最適。
アメリカの言語学者・人類学者による言語学概論。言語の恣意性と相対性を前提に、個別言語をどのように研究していくべきかがよくわかる。古典的著作だが、全く古びておらず、全篇に知性が冴え渡る。サピアに日本語を研究して欲しかったと思う。そうすれば日本語は非論理的だとかいう意見はとうの昔に消え去り、無意味な混乱もなく日本語研究が進歩していただろう。翻訳も素晴らしい。
初めて教える、または経験の乏しい日本語教師がどうやって教えればいいか、初級レベルの約150文型を素材に、基本的な知識と教え方のコツを伝授する教師用マニュアル。それぞれの文型に文法知識の整理と教え方の例などが記載されていて、類書の中では非常にわかりやすく、痒いところに手が届く実践的な解説で、新前日本語教師のみならず日本語教師が常に参照できる一冊。
昭和32年に出た『江戸語東京語の研究』の増補版。江戸語の成立から東京語形成の過程を、式亭三馬の戯作や外国人の書いた日本文典などの資料から考察する。江戸語の音韻現象の研究も行なっている。著者は東京下町出身だが、東京語から下町的要素を除去して標準語として洗練されていく方向を是とする立場をとっている。また、近代日本語において問題になる文法表現、特に助詞の用法についての論考も収める。
シカゴの11歳の少年が偶然出会った日本の漫画を読みたいがために日本語を習得し、アイドル・文学・歴史など日本文化全般に通暁し、やがてアメリカ随一の日本オタクに成長して、日本人より日本語が上手いアメリカ人として日本で活躍するまでを描いた自叙伝。
外国語は趣味から入るのが一番と説くデーブ流日本語学習の方法論にも多くの紙数が割かれている。
英米で活躍する日本通ジャーナリストの日本論。日英両方の文章を著者が手がける。アカデミックな日本研究、日本での記者経験、日本文学の翻訳などをしてきたにも関わらず、職業柄なのか、表面的なステレオタイプの日本観、日本人の中に入っていく工夫のなさが目に付く。一方的な日本論を展開し、批判を書き連ねた日本叩きの書だが、意図が明快で内容が把握しやすく、英語学習には向いている。
個別言語が空間をどのように切り分けているかを研究した言語人類学の本。空間的な事柄を表す言葉は文化によって異なり、サピア・ウォーフの仮説として知られる言語相対論が無視できるものではないことを示しているが、それは認知という別の普遍性に基づくものではなく、言語の恣意性とも関わるが、言語(現象の切り分けとカテゴライズ)が歴史的に形成されたことに基づくことがわかる。
明治以前には日本の正統的な学問であった漢学が明治時代にいかなる状況にあったかを、明治期における漢学研究の新潮流、近代的な漢文法の成立、漢文教科書・入門書の書誌学的研究など関連するあらゆる観点から詳細に研究した本。近代啓蒙の時代に旧弊とされた漢学だが、実際には批判した人々も含めて漢文は指導者たちの知的な背骨になっていたのであり、近代化にも寄与したことがわかる。
言語学のコードとメッセージという枠組を用いて、敬語を日本人の対人関係で大きな役割を担っている礼儀の言語表現のコードとして記号論的に捉え、敬語コードの変遷として敬語史を辿った本。上下関係のコードから対等関係のコードとしての敬語への移り変わりを、日本人の精神史・生活史という観点から跡付ける。現代を敬語コードの変革期と位置付けつつ、敬語が滅びずに広がっている新潮流を指摘している。
近代語の表記と表現に関わる論文を収める。表記では、昭和21年の表記改革の概要と問題点、夏目漱石の振り仮名と仮名遣いの使用状況を、表現では、人民・国民・臣民や女・婦人・女性の語誌、近代小説における接続詞「が」の発達と用法、近代短歌における已然止めなど語彙・語法上の問題を考察している。表記を根本的に考える原論の構想として、「表記論序説」という一章が割かれている。
アジア・アフリカ地域における日本語を含む23の言語の歴史・音韻・文字・語彙・挨拶・参考図書などをコンパクトに紹介したガイドブック。スワヒリ語などアフリカの言語、西アジア・中央アジア・東アジア・南アジア・東南アジアの諸言語、またサンスクリット語のような古典語や、日本と関わりの深いアイヌ語、満洲語などの基本知識が得られる。1巻と同様、類型論入門にもなっている。
ヨーロッパ・アメリカ地域における22の言語、英語などのインド・ヨーロッパ語族の諸言語、ハンガリー語などのウラル語族、バスク語のような系統的に孤立した言語、さらにギリシャ語・ラテン語・古代スラブ語という古典語の歴史・音韻・文字・語彙・挨拶・参考図書などをコンパクトに紹介したガイドブック。言語面からの西洋文明入門としても読め、類型論の入門書にもなっている。
英語の多義語200語を、語意変遷のプロセスとメカニズムを辿って解説した本。多義語間に関連性が全くないということはあり得ないが、意外と適当な感じで多義語が形成されていることがわかる。辞書の空白を埋める本書の語義の詳説を読むと、英語学習者がふだん疑問に思っていることが氷解する。英語史の学習にもなるとともに、日本語の多義語も似たようなメカニズムによるものが多いことに気づかされる。
現代日本語の変わりゆくさまを、言語のメカニズム、方言の伝播、社会言語学、国語史などから考察した本。ラ抜きことばや、「じゃん」「ちがかった」「みたく」「うざい」「チョー」などの新しい表現が生まれてきた背景を資料を駆使して解明している。言葉の変化にはそれなりのメカニズムがあり、国語史的観点から見ればいわゆる「言葉の乱れ」という批判の多くが根拠がないことがわかる。
雑誌「日本語学」に掲載された日本語学者の小評伝を集めた本。本居春庭(足立巻一)・鈴木朖(尾崎知光)・大槻文彦(風間力三)・山田孝雄(佐藤喜代治)・橋本進吉(金田一春彦)・時枝誠記(鈴木一彦)という国学・国語学の巨人たちの生涯と業績を紹介し、山田・橋本・時枝は直接学んだ弟子が執筆している。紙数上、学問の詳細には踏み入っていないが、個性的な人間像が魅力的に描かれている。
外国人(アメリカ人)が理解できない日本人の行動やそれが由来する文化背景を解説した本。サンフランシスコの異文化ビジネスコンサルティング会社が書いたもので、本文と日本語訳が併記されている。その理解は近代主義的なステレオタイプに基づいており、自らの西欧中心主義に何ら懐疑が持たれておらず、この本自体が日本を誤解した本とも言えるが、外国人が日本を知る手がかりにはなる。英語は平易。
世界言語における文字を、音標文字と漢字に大別して、その画数・類似文字数・文字の型などの情報通信符号としての特徴を指標に、幾何学・統計学・集合論などによってデータ化した情報工学と言語学の学際的研究。世界各地の固有文字を情報理論的に扱うための第一段階として書かれている。序章は文字史をはじめとした文字基礎論で、後半には諸表・データ編を付す。
昭和62年刊行の『大学生のための日本文法』を改訂したもの。日本語文法で考えるべきことを網羅し、緻密で納得の行く解説をしていて、文法入門として一冊選ぶならこれと言える名著。近代日本語文法研究史としての面白さもある。日本語を格関係と係関係の多重構造として把握し、文を完結させる力があるのは終助詞ではなくイントネーションであるとする陳述イントネーション文法を提唱している。
西洋において長らく宗教や学問を表現する際の標準語としての地位にあった古典ラテン語の入門書。西洋語には多くのラテン語源の言葉があり、文法的にもロマンス諸語と共通しているので、ラテン語の基礎知識は持っておきたい。格変化によって意味を表示するラテン語は語順が比較的自由であり、格助詞を有する日本語と似ていることも知っておいていいだろう。入門書としては相当歯応えがある。
初級レベルからもう少し本格的に中国語を理解できるようになりたいという段階の学習者に向けて書かれた中国語文法の解説書。可能の助動詞、介詞(前置詞)の位置、形容詞の微妙な使い方、動詞と目的語の関係の種類、日本語の干渉による誤用という項目に分け、いわゆるニュアンスと言われるような表現の違いを、できる限り文法的に説明している。日本語文法を学ぶように中国語を学べる本。
平成6年に角川書店から出た『敬語』の文庫版。話題の敬語と対話の敬語という二種類を上下・立場・親疎・内外等のファクターによって使い分ける日本語の敬語を、語形・機能・適用の三つの側面から体系的に考察した名著。「お/ご〜する」という謙譲語の語形を尊敬語として使うようになっている誤用は、敬語の人称指示的機能を無意味化するもので、敬語体系全体を揺るがすものと警鐘を鳴らしている。
英文法史の権威が、自らの研究生活のスタートの頃を振り返りながら、日本人にとっての英文法ひいては文法というものの歴史的意味を説いた本。古典を正確に読解するために発達した伝統的な文法学の歴史と意義を、生きた言葉を共時的かつ形式的に研究する構造言語学に対置しつつ、明らかにしている。文法中心の外国語学習は、読書力と文章力を高め、知力を磨くためにあることがわかる。
ネイティブスピーカーの英文法シリーズの第2巻。丸暗記型の勉強法ではなく、ネイティブスピーカーの感覚を把握することで、前置詞を自然に使いこなせるようになるというコンセプトで作成されたテキスト。前置詞のコアなイメージから意味の広がりまでを説明しているのだが、理解しやすい部分と意味の広がりがすぐにはフォローしきれない部分がある。日本語の助詞の用法と対照しながら学ぶと面白い。
平成5年に太田出版から出た方言学の本の文庫版。大阪朝日放送の人気番組『探偵!ナイトスクープ』が企画として行なった全国のアホ・バカおよびそれに類する言葉の分布調査の内容を、番組プロデューサーがドキュメンタリー的かつ国語学的に書いたもの。方言地理学を本格的に勉強して学会発表まで行ない、国語学史に残る出来事になったプロジェクトの一部始終を知性とユーモアあふれる筆致で描いている。
日本語文法の大きな問題とされながら、未だ定説が確立していない係助詞「は」と格助詞「が」について、日本語における主題というテーマを軸に、包括的・体系的に研究した本。主題を示す「は」と格を表す「が」の違いを基本に、「は」の対比の働きや「が」の排他的な働き、さらに「が」もとりたて助詞としての働きを持つことまでを論じる。周到緻密に書かれた、「は」と「が」の研究の決定版と言える一冊。
大学・短大の英語・英文科向けの英語史の基礎テキストとして書かれた本。現代英語を深く知るために英語史の知識は必須であるという観点から、英語史概観、比較言語学と印欧祖語、格・法の語尾変化、語順変化、綴りと発音の不一致、不定詞・動名詞の発達など、いくつかにテーマを絞って解説されている。記述は平易で、理解しやすいが、かなり高度なレベルにまで踏み込んでいる部分もある。
大学の教養課程レベルの言語学を、教科書的ではなく著者の関心に従ってテーマを選別し、講義した本。動物と人間の記号活動の比較による記号論の基礎、あいさつの社会言語学的考察、指示語や人称表現における日本語と西欧語の比較文化論的研究、日本語に対する言語干渉という観点から見た外来語受容の考察など、著者ならではの切り口による言語論を展開している。
英語の不思議、不可解の由来を、発音・語彙・文法の3章に分けて解説した本。そもそも異なる系統の民族の言語をベースに持ち、異民族の征服を何度も受けて混成語になっていること、音韻体系の変化があったこと、そして極めつけはある意味つまらない理由でスペルが変えられたりしたこと、などによる英語の不思議が快刀乱麻に解き明かされる。実際には正統的な教養本だが、英語史の雑学を楽しむように読める。
昭和16年に育英書院から出された日本語論の復刻版。清水康行の解題を付す。書名は日本語は日本語に即して研究するという当たり前の普遍的な方法を意味する。前半は音声学関連の問題を扱い、後半の文法論では物語り文(動詞文)と品さだめ文(性状規定の形容詞・形容動詞文と判断措定の名詞文)など佐久間文法の要点が頭に入りやすい文章で述べられている。総主構文問題は曖昧な議論に終わっている。
書き言葉と話し言葉は違うという基本前提から、話し言葉としての英語のコツを解説した本。連音などの発音の自然な変化、強弱アクセントの原則、日本語にない発音の仕方、子音の発音について日本人が注意すべきこと、英語らしいイントネーション、文中の切れ目の入れ方など、ネイティブスピーカーらしい英会話のコツをプラグマティックに教える。雑然とした構成の本だが、実力はつく。CD別売り。
構造や文法から学べる中国語入門。類型論・音声・文字・語彙・文法・語用論(文化論)という構成で、随所に中国語史や対照研究の知見がちりばめられている。中国語を学ぶことは漢語を語彙の大きな構成要素とし、文の構造にも影響を受けている日本語の研究にとっても参考になるが、本書は国語学・日本語学も意識して書かれているので、日本語教師には最良の中国語入門と言える。
国語学の蓄積の上に、新しい見方や研究成果も取り入れて、古代から近代への日本語の変貌・変遷の諸相を記述した日本語史。文字・表記、音韻、文法、語彙、文体・文章、方言など13章に分け、13人の研究者が執筆している。基本的なポイントを簡潔に押さえた文字通りの概説で、日本語を学ぶに当たってどのような分野や問題があるのかを知ることができる。テーマごとに参考文献表が付いている。
文法を知れば言語の理解は事足りるのではなく、コミュニケーションのためには意味の理解が不可欠であることを述べた本。平成3年に筑摩書房から出た本の文庫化。言語は自立したものではなく人間の認知が深く関わっているという立場から、認知言語学・テクスト言語学・語用論・レトリック論を含めた言語理解を考察している。英文法に留まらず、日本語文法との対照や言語学一般にまで説き及んでいる。
日本語教師が日本語学習者に教えなければならない事柄、及び日本語教育に関して知っておくべき知識を、総合的にまとめた古典的著作。国際化時代を迎えて、日本語教育へのニーズが高まった1980年代に書かれ、95年に改訂されたもの。基本的な問題点は抑えられており、重要なポイントも鋭く指摘されていて、今でもほぼそのまま使える。教授法に限定せず、日本語教育学の概説書としても読める。
英語のユーモア表現を考察したユーモア言語学の本。英語国民の歴史的伝統的文化、価値判断の基準等とそれを産み出した文化的風土を明らかにすべく、アルファベット、発音、音節、略語、同義語、反意語、あいまいさ、多義性、句読点、多重否定など、言葉遊びに基礎を置いたユーモア表現を紹介する。辞書に見るユーモアも面白い。例文は高校レベルなので、読み進むうちに英語の感覚そのものも身に付いてくる。
日本人の基礎教養としての日本語概説書として書かれた本。総論、音声・音韻、文字・表記、語彙、文法、敬語、文章・文体、共通語・方言、言語生活という章立てで、日本語の基礎知識が過不足なくまとめられている。内容的には日本語教育における日本語学とほぼ重なるもので、日本語教師としてもこの程度は最低限抑えておきたい。大学の教養過程の教科書レベルだが、簡潔平易で読みやすい。
アイヌ語学者によるフィールドワークの体験を記したエッセイ集。アイヌ語との出会いから研究者になるまで、アイヌの言葉と民俗、フィールドワークの際のアイヌの人達との付き合い方、アイヌ語の現在(1990年代)と未来などが、柔軟で繊細な感性と知性を感じさせる筆致で綴られている。人類学・民俗学的な考察も深く、アイヌ語だけではなく、アイヌ民族とアイヌ文化の優れた紹介本になっている。
日本の学校英文法では複雑な規則を暗記すべきものとして英文法を教えるが、それはネイティブスピーカーの感覚とはかけ離れているとして、ネイティブスピーカーの頭の中にある自然で単純な文法を解説する本。定冠詞と不定冠詞、可算名詞と不加算名詞、anyの用法、否定文におけるnotの役割、時制、進行形と完了形、疑問文と関係詞の関係など、平易明快に目から鱗の英文法論を展開している。
英語中心主義と言語学的無知とお国自慢による日本語特殊説という「迷信」を批判しつつ、日本語の個性、日本語「らしさ」を、表記・語形・文法・音声などの側面から比較言語学的に探究した本。様々な雑学や面白ネタが駆使されていて、楽しく読める一冊。
音声におけるプロソディーの重要さを強調し、外国語教育に取り入れることを提唱している。
アメリカ経験が長い科学者による理科系の英語習得入門。科学的内容を表現する一義的でシンプルな英語とはどのようなものであり、それをどのように身に付けるか、英語学ではなく、実践的な英語術として説いている。初級を終え、中級に移行するレベルの英語学習者に有益な本。日本人の英語(というよりコミュニケーション)の弱点を徹底的に指摘しており、理科系だけではなく、文科系の人間にも役に立つ。
日本の英語教育では日本語と英語の違いを教えないが、英語を学ぶには英語圏の文化を知り、そのことを通じて日本語・日本文化を知ることが必要であり、情動的・感覚的・共同体的・モノローグ的な日本語と分析的・論理的・個人主義的・ダイアローグ的な英語との違いを知り、相互媒介的に学ぶことが必要と説く。日本語を英語に直訳可能な段階のものに意識的に論理化する「中間日本語」の訓練を提唱している。
かつて英語を学んだ大人が、英語の基礎になる文の基本的な構造をもう一度しっかり学び直すことでたしかな英語力を付けようというコンセプトの本。英語では語順(基本文型)と時制さえ正しく使えれば最低限の伝達はできることから、そこに重点を置いて文法を解説している。文法解説と練習問題から成り、中学レベルの英語で難しくはないので、英文法をおさらいしたい人が最初に読むのに適している。
古典文法の概説書。本文に加え、応用編となる「演習」「発展」、さらに知識を深められる「読解のために」「学説」という構成で、古典を読み解くための古典文法の簡潔な取扱説明書と言うべきものになっている。著者はこれまでの日本語文法学を総合し、古典文法と現代日本語文法を一体として把握できる体系的な文法を構築しているので、同じ著者の『現代日本語文法入門』を併読すればさらに理解は深まる。
日本語による文表現の型を、「題説構文+陳述」と「叙述構文+陳述」の二つの基本型として把握した上で、助詞・助動詞・修飾・述部の構造などの現代日本語文法の基礎、ウナギ文・主語論・既知未知の関係などの日本語の重要な問題を解説した本。一般向けに書かれた新書としては内容は相当高度だが、論理は明晰で文章もわかりやすく、丁寧に読めば日本語の本質が理解できる。日本語文法学史としても読める。
母語を総体的に考察した言語学の古典。言語は意思疎通の手段や道具ではなく、人間が言語によって現実世界を精神の対象にする働き、すなわち現実世界を母語独自の仕方で整理する働きであり、語音と現実の間に精神的な中間世界として介在するとする。当然ながらこの中間世界は母語を共有する言語共同体として存在し、中間世界・母語が異なるということは世界観が相違することであると捉えている。
日本近代の文章で三人称が成立する過程を辿った本。近世までの日本の文章は一人称しか持たなかったとして、神の言葉を語る超越的一人称、俗なる人間が語る一人称を考察したあと、ヨーロッパ近代の受容の一大指標として、言表行為性のゼロ表示によって客観的な叙述や描写を可能にし、近代社会の現実と近代文学の虚構空間を表現し得る三人称が、文末人称詞「た」とともに日本語に成立する過程を跡付けている。
言語学者と文化人類学者による文化記号論のテキスト。昭和58年に有斐閣から出た『文化記号論への招待』の文庫化。記号論の基礎、旧修辞学の現代的捉え返し、比喩の構造、記号論的な文化人類学などから成る。ことばのコードと文化のコードを相同的に捉える汎記号論の立場を取り、文学から祭りまでの日常の構造と非日常の構造を考察している。わかりやすく、入門的解説書として今でも十分に通用する。
現代日本を代表する哲学者の言語論をテーマしたものを収めた論文集。著者の最初の本になる。大陸合理論と英米経験論の対立を汲む現象学と言語分析哲学、超越論的哲学とプラグマティズムを、言語行為の場における共同主体的な実践という見地から架橋し、フッサール、ウィトゲンシュタイン、メルロ・ポンティ、オースティン、サール、デリダ、ハーバーマスなどの関連した論を考察している。
現象を反映する直接性によって言語的に低く見られがちなオノマトペを、本格的に言語学の対象として、日本語を中心に英語・中国語と比較しながら考察した論文集。音韻論・音響学などの音声面、オノマトペが副詞・動詞・名詞・形容動詞になっている統語範疇、児童文学・漫画・学術論文・話しことばなどにおける出現頻度など様々な角度から論じられている。音節構造が近い中国語との比較は興味深い。
東京語の成立史を、方法論、江戸語、音韻、語彙、文法、文体・文章、文字・表記にわたって、話し言葉、書き言葉、伝達の道具、外来文化の影響という視点から、総合的に研究した論文集。大学院生時代から30年間書きためた関連論文を集成した900ページ近い大著で、詔勅や電報文、振り仮名や句読表示までを含むあらゆるテーマを網羅しており、東京語成立史の事典としても使える。
4人の言語学者による教科書。日本語を素材に、形態論・構文論・意味論・類型論・歴史言語学・音声学の分野からテーマを選び、言語学の理論操作の訓練テキストとして作られている。方法論が前面に出ていて理論に言語が従属している感があるが、基礎的なことが中心で難しくはなく、現在のアカデミックな言語学の姿を知ることができる。第7章「音の構造」はIPAのマニュアルとして使える。
兵庫県出身の評論家河内厚郎が15人の各界の人々と関西弁について対談した本。平成元年から翌年までNHK大阪放送局で放送されたラジオ番組「河内厚郎の関西弁探検」を出版したもの。桂米朝・中井和子・尾上圭介・茂山千之丞・藤本義一など関西の言葉に関わる仕事をしている面々が、様々なアプローチで関西弁を語っている。東京下町出身の言語学者大野晋も関西方言に対する提言を行なっている。
未開社会やアジアなど異なる文明圏の言語を研究して、言語が異なれば経験の文節の仕方、物の見方も異なるとしたウォーフの言語的相対性原理(サピア=ウォーフの仮説)に関連する文章を集めた本。ウォーフが近代西欧語を絶対的な基準とすることを批判し、西欧語以外の言語と認識や、近代とは異なる言語と認識のあり方に尽きせぬ興味を持ち、文化の意味を探究したことがわかる。
英語国人と日本人との物の見方や感覚に違いがあるという前提から、その感覚を理解すべく、英文法を読み解こうとした本。英語・日本語の変換のプロセスを把握するために、直訳的かつ具体的に、たとえば「it」とは何であるのか、日本語の「それ」とどう違うのかを徹底的に洗い直すなど、英語表現のしくみを考察している。英文法の細目が網羅されているが、説明はそれほど難解ではなく、面白く勉強できる。
日本語の文法を中心とした表現の変化の意味を跡付けた日本語史。単音節から複音節へ等の語彙の構造の変化、条件表現や疑問表現の変化、係り結びの成立と変遷を取り上げ、それらの表現の変遷に狭いコミュニケーションにおける情意的表現から開かれたコミュニティにおける論理を明確にした表現への進展を読み取り、漢文訓読の経験がそうした進展を援ける外的要因としてあったと推定している。
係り結びを特定の助詞と文末の呼応現象とのみ見るのではなく、日本語の基本構造の問題として考察した本。疑問詞を承けるかどうかを手がかりにして、係り結びに題目を提示して文末にその陳述を要求するものと、生起する現象を描写し記述するものという二系統があることを、係り結びの歴史を辿りながら明らかにし、室町時代に係り結びが滅びた後も、その構造が現代語のハとガの対立に連続しているとする。
英語と日本語を言語的に比較しながら、それぞれの発想・文化の違いと共通性を考察した本。構造、語法、文体、生活と文化、論理とヒューマーのテーマにわたる見開き2ページ程度のコラムが収められている。英文は初級レベルで、英語を勉強し始めた中高生の時に素朴な疑問を感じたようなことがわかりやすく解説されている。難しい言語学の本の合間にほっと一息入れられる言語論。
19世紀にヨーロッパで生まれた印欧語の比較言語学の学説の展開について解説した古典的著作。昭和25年に岩波全書から出た『比較言語学』を解題して文庫化したもの。言語の分化とその後に変化による方言や新しい言語の形成を明らかにし、逆に言うと共通基語の再建という比較言語学の目的と方法を比較的わかりやすく説いている。比較言語学の核心と言える音韻変化の法則性について詳しく解説している。
森岡健二を中心に7人の研究者による近代語成立史。標準語は東京語の伝搬の結果成立したのではなく東京語と平行して形成されたのであり、室町・江戸時代以来の抄物・講義物など全国共通語としてすでにあったものを基盤に、明治40年代に近代的な思想を自由に表現できる言文一致体が完成し、口語文法が確定した時点で成立したことを文法や文体の研究から明らかにし、「汎共通語論」を提唱する。
昭和44年に出された『近代語の成立 語彙編』に4編の論文を加えた改訂版。近代日本語の漢語語彙が欧米の新しい概念の翻訳において産出された過程を考証した労作。日本語の特質として文字(漢字)が音声と並ぶ地位を持っていることを踏まえて文字形態素論という部門を立て、漢字形態素による語構成の方法を考察し、中国語と日本漢語との語構成の違いを含めた近代漢語創出の機構を明らかにしている。
昭和28年発行のロングセラーの英文法概説書の第3版。英文法の参考書であるとともに、英文解釈・英作文・英文法を三位一体とした総合的参考書として書かれている。現行の3版は3年余りをかけて改訂されている。英文法の項目が網羅されており、どこから読んでもよく、文法辞書・表現辞書として使える。500ページの大冊だが、解説とともに例文を読んでいるといつしか英語の全体が理解できてくる名著。
同系語を探すことが難しい日本語の起源を、古代タミル語に求めた日本語系統論の本。日本語とタミル語は多数の基礎的語彙が形態・音韻・文法・意味にわたって対応することを示し、言語学にとどまらず、考古学・神話学・民俗学などに関する検証も試みている。批判が多い説だが、国語学者としてすでに一家を成していた著者が、タミル語と出会い、本格的な研究に打ち込んで行く経過が語られていて、興味深い。
日本語教育に使える客観的な日本語文法の体系的構築を目指した寺村秀夫の代表的著作の第3巻。第3巻は平成2年に急逝した寺村の原稿を、ゆかりの研究者たちが整理・補訂して完成させた遺著。中心になっているのは係助詞・副助詞を併せた取り立て助詞の研究で、山田孝雄や三上章などの先行研究を踏まえながら、取り立て助詞の統語的特徴や表現機能が論じられている。巻末に全3巻の総索引が付く。
日本語学の碩学が、外国語と比較しながら、日本語ならではの性質をテーマに論じた本。日本語の発音・表記・語彙・文法・表現に分けて、日本語の核心部を考察する。日本語に対する通念的な批判を、具体的な論拠から快刀乱麻に相対化していくところが面白い。アスペクト、テンスの「た」、助詞「が」などの問題も平易明快に説く。著者は音韻やアクセントを専門とするだけに、その部分が特に読み応えがある。
徳川宗賢大阪大学教授の還暦を記念して門下の日本語学・方言学研究者が寄稿した論文集。地域差としての方言の秩序が崩壊しつつある状況において、地域差に加えて社会差・機能差にも着目した社会言語学的な新しい社会方言学の提唱が基調になっている。米仏中韓泰豪の方言と共通語・標準語事情が紹介されているのも有用。事情方言をめぐる論点が網羅されており、方言学の入門テキストとして今でも有効な一冊。
標準語成立の史的状況を社会言語学の視角から追求した本。昭和62年にPHP研究所から出た『標準語の成立事情』の増訂版。江戸時代後期に京都ことばから江戸語へと共通語が移行し、明治時代に東京語をベースに標準語が作られていった過程を辿る。標準語は国語教育・日本語教育にとって必要だが、国語教師・日本語教師が方言の実態や言語的な豊かさをよく知った上で教育に携わるべきことを説いている。
全知視点による客観的叙述を可能にしている西欧語的な一人称と三人称を持たず、話し手・語り手に密着し、かつその立場が自他融合的に聞き手・読み手に共有されている日本語の特質から日本文学・日本文化を考察した本。さらに日本人の意識のありようは即物性・即時性であり、日本人の表現は私語性と集団性として表われると分析している。西欧語世界に迫ろうとした作家たちの試行や挫折のテキスト論は迫真的。
言語論的転回と言われる20世紀の知の状況をまとめたワードマップ。構造としての言語という記号論的視点がもたらした認識論的・方法論的革新から出発し、言語モデルで解析される無意識の領域を考慮に入れ、行為・コミュニケーションとしての、他者論を繰り込んだ言語使用論的視点を中心に据えている。静的な構造ではなく、構造と欲動による創造の動的な過程として生そのものとしての言語を捉えている。
日本語から古代信仰を探った本。宗教以前・人格神以前の呪術的段階の観念が重要であり、霊魂(タマ)は遊離魂と解釈されることが多いが、万物に属する霊力・呪力の観念を知るべきことを提起し、神話や歌謡などから霊魂や呪術に関する言葉を分析している。タマフリに見られる霊力・呪力の活性化の呪術の考察、イハフ・ヨム・イノル・ノロフ等の言葉の呪術的解釈などから、古代人の世界観を明らかにしている。
ラテン語教育で行われた文法訳読法から最近の外国語教育理論までを批判的に跡付けた労作。日本語教育にも取り入れられている代表的な外国語教育理論がどのようなものであるかを、その背景も含めて知るのに最適の一冊。
様々な外国語教育理論をいかに日本語教育に活かすかという問題意識で書かれており、現場の日本語教師にとっても非常に参考になる。
日本人のための国文法ではなく、外国人に教えるための日本語文法を概説した入門書。文法を項目別に記述的に説明しているのだが、用法にネイティブの語感を持つ日本人でも判別し難い、あるいはすっきりとは説明し切れない不確定なところが残る場合(実際、そうした場合が少なくない)はそれを指摘してそのまま示していて、日本語文法を外国人に教えることがいかに難しいかを教えてくれる本。
日本語表記の開拓者としての太安万侶、和文の創造者としての紀貫之、仮名遣の創始者としての藤原定家、日本語の音韻の発見者としての本居宣長、近代文体の創造者としての夏目漱石、主体的な日本語文法の創造者としての時枝誠記と、時代を代表する文人や研究者の業績と日本語史における意義を解説しながら、日本語形成史を辿った本。現在につながる日本語の歴史が生き生きと楽しく描かれている。
助詞・活用・助動詞を題材にして、古代から近代への国語の論理の変化を考察した本。「が」における主格意識の変化、「を」における客語意識の変化、「に・へ・の」における近代的論理の形成、条件表現の変化、時の助動詞が「た」に収斂していく変化を取り上げ、個々の語が話し手の表現として使われていた古代的論理から、文の中の語句間の文法関係を意識する近代的論理へと変化していく過程を辿る。
認知科学的アプローチによる学習心理学の本。人間は自分と世界について整合的に把握したいという欲求を持ち、生得的な言語的・知的能力や後天的に得た知識を媒体として、規則を見出し、予測し、解釈し、妥当性を検証するなどして納得を得ようとする生き物である。そのような能動的で有能な人間観を前提に、人はいかに学ぶかを考察する。教える立場の人はもちろん、学ぶことが好きな大人にも必読の書。
角筆文献研究の第一人者が、研究の歩みと角筆文献が開く新たな世界を紹介した本。角筆は主に漢文訓読の文字・符号を記すために用いられた筆記道具だが、昭和36年に著者が着目するまでその存在が見過ごされてきた。角筆は私的に使用されるものだったので口語表現が記されることが多く、過去の日本語とりわけ平安時代の日本語の実態を知る一級資料であることが明らかにされている。
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「言語学の立場から国文法にツッコミを入れてみる」というノリで日本語文法を考え直そうとした本。橋本進吉の文節概念、時枝誠記の言語過程説、大野晋の助詞「は・が」を旧情報・新情報という枠組で見る説という代表的な国語学者三人の説を取り上げ、それぞれの問題点を洗い出し、著者自身の説明を示す。疑問に思うところには素直に疑問を持ち、根本的に追究するという姿勢で書かれている。