南丹日本語クラブ

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日本語教育おすすめ本 3

日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。

認知言語学

大堀壽夫

言葉から心を探究する認知言語学のテキスト。言語が大きな要素になっている認知の働き(カテゴリー化など)によって現実が構成されていると見做し、生成文法のような普遍主義と個別文化の相対主義の中間に言語の所在を置き、言語類型論による比較考察を行なうという認知言語学の基本的立場がわかる。構文を意味論の重要な単位と捉えるアプローチも説得力がある。非常にわかりやすく書かれている。

東京大学出版会、平成14年(2002)12月

楽しみながら学ぶ作歌文法(上・下)

島内景二

短歌にも造詣の深い国文学者による作歌文法の本。上巻「助動詞篇」、下巻「動詞、形容詞、他さまざまな品詞篇」に分け、文語文法と口語文法のすべてを、網羅的かつ古典から現代までの作品に即して解説している。優れた短歌入門であるとともに、受験生にも有益な国文学と古典文法の入門書であり、歴史的仮名遣のための手引きにもなっている。古典と短歌(和歌)を愛する人の必読の書。

短歌研究社、平成14年(2002)11月

多文化共生時代の日本語教育

縫部義憲編著

外国人を地域コミュニティのメンバーとして受け容れるというコンセプトによって、異文化理解・教材・音声学・文字・語彙・文法・読解・聴解・会話・コミュニケーション・総合的学習などのテーマ別に書かれた実践的論文集。
一般市民が外国人に日本語を教える場合を想定しているということだが、日本語教育理論を専門的に学んだ人でないと難しいレベル。

瀝々社、平成14年(2002)11月

最強の英語上達法

岡本浩一

英語の達人が、英語にまつわる俗論を排して上達法を指南した本。文法をしっかり学ぶことや十分な量の単語を暗記することなど、基礎的な学習の必要を正攻法で説く。英語と英語ネイティブの様々な特徴についての薀蓄も勉強になる。ある程度英語を勉強していて、著者の所説の相当部分に体験的に共感できる人が読む方が有効であろう。独学で日英バイリンガルになることを目指す人のための最強の書と言える。

PHP新書、平成14年(2002)10月

日本人にも外国人にも心地よい日本語

小林美恵子他

国分寺市立光公民館で開かれている「生活日本語教室」で教える5人の女性日本語教師による日本語論。敬語・女性語・身分関係を示す呼びかけ語・擬似血縁的な呼びかけ語・不快語・差別語などに対しては基本的に否定的、若者ことば・流行語・ラ抜き言葉など日本語の変化に対しては許容的な立場で、フェミニズム的な「日本人にも外国人にも心地よい日本語」を提唱している。

明石書店、平成14年(2002)10月

世界の言語政策

河原俊昭他

アメリカ、フィリピン、オーストラリアなどそれぞれの歴史を持つ世界各国の言語政策の歴史と現状を報告している。宗主国の言語の影響、多民族・多言語社会における公用語・国語形成の苦労、少数言語の現状、外国語とりわけ世界語としての英語との関係など、日本の言語問題、言語政策を考える上でも参考になる。日本語学習者がどのような言語的背景を持っているか、知っておきたい。

くろしお出版、平成14年(2002)9月

ケジメのない日本語

影山太郎

意味構造におけるケジメ(意味の境界)の有無から日本語と英語を考察する対照研究。英語の動詞は目的志向的でそのままか前置詞を付けるだけで結果を表わせるが、日本語の動詞は過程志向的で複合動詞にしなければ結果を表わせない。動詞派生名詞の語構成も、英語はそのまま名詞になるが、日本語は複合語になる傾向がある。こうした動詞・名詞に見られるケジメのなさは日本文化にもつながっていると示唆する。

岩波書店、平成14年(2002)9月

英文法に強くなる

林信孝

「英語は好きだけど文法は嫌い」という若者向けの英文法解説書。形態論・統語論にとどまらず、談話文法や語用論までを視野に入れ、全15章に分けて英文法のポイントを解説している。例文は易しいが、文法解説はかなり高度で、新書の分量では説明不足と感じるところも多い。後半は情報構造理論を中心に考察を進め、日本語学的にも興味深い。英語の発想による英作文の書き方にも説き及んでいる。

岩波ジュニア新書、平成14年(2002)7月

英語で日本語を考える

片岡義男

英語の堪能な作家が、日本語独自の表現をどのように英語にするかという百の例題から日本語と英語それぞれの特質を考えた本。ディジタル的な論理性を持つ英語に対して日本語は曖昧で夾雑物が多いと考えているのがわかるが、それは屈折語と膠着語の違いであり、日本語は助詞や助動詞でニュアンスを表現できるということに過ぎないし、また漢語の静態的な性質を日本語独自のものと嘆いたりしているのも面白い。

フリースタイル、平成14年(2002)6月

21世紀の方言学

日本方言研究会編

昭和38年に発足した日本方言研究会の研究者による31本の論文、10本の地方からの提言、16本のコラムを収めた本。これまでの方言学を振り返り、跡付けるとともに、ここ数十年間の方言の消滅と共通語化を方言の危機として捉え、同時にグローバル化やインターネットの普及などによる新しい方言状況にも対応した方言学の再構築が提唱、模索されている。現代方言学の課題と問題点が網羅された一冊。

国書刊行会、平成14年(2002)6月

日本語教育のための心理学

海保博之・柏崎秀子編著

認知心理学や文化心理学から日本語教育にアプローチしたテキスト。知の構造と機能から説き起こし、第二言語習得の心理的メカニズム、母語・母文化の影響、留学生が体験する異文化接触の心理学、学習指導に関わる心理学などが論じられている。日本文化と日本語学習者の文化の双方を重視した日本語教育研究になっているのが特徴。学習者と教師の両方の心理を踏まえた内容は日本語教育に携わる者にとって必読。

新曜社、平成14年(2002)6月

総合的日本語教育を求めて

水谷修・李徳奉編

グローバル化、ボーダーレス化によって物・人・マネー・情報・文化が国境を越え、市民レベルでの異文化交流や相互理解が求められる現代における日本語学習者の多様なニーズに応え、日韓中台の日本語教育関係者が従来の枠に囚われない総合的な日本語教育のあり方を様々なアプローチから論じた本。古典からインターネット、サブカルチャーまで、幅広い分野にわたる日本語教育の試行や模索が報告されている。

国書刊行会、平成14年(2002)5月

日本語は進化する〜情意表現から論理表現へ

加賀野井秀一

漢文訓読の伝統に立脚しながら西洋文明の論理を表現できる日本語を創り出した先人たちの努力を跡付ける近代日本語成立史。感覚的・感情的な表現が優位だった日本語が分析的・論理的な表現を獲得していく過程を描く一方で、演繹的な西洋語の論理に対して発見的・協調的な日本語の帰納的論理の特質を見出し、敬語を自己確立と他者認識になくてはならぬものとして位置付けるなど、日本語独自の論理性を語る。

日本放送出版協会、平成14年(2002)5月

国語一〇〇年

倉島長正

明治33年(1900)に発足した国語調査会から始まり、平成12年(2000)に国語審議会が廃止されるまでの百年間の日本語の歴史と国語政策の変遷を、国語学者・文学者・文化人などの活動やGHQの占領政策などを含めて詳細に跡付けている。現代日本語の表記法・文体の形成の歴史と、それらをめぐる思想上の論争などについても概説している。日本語教育関係者にも必読の一冊。

小学館、平成14年(2002)5月

日本語文法のしくみ

井上優

「日本語のしくみを探る」第1巻。無意識に文法を身に付けている日本人が日本語の文法を考える意味、文法研究の方法という総論から説き起こし、文の構造、助動詞「た」の用法などの各論という構成。文の構造論は入門書としてかなり高度な内容で、文の構造の学説の見取り図にもなっている。著者の出身地である富山県井波町の方言を例にした方言の文法論、韓国語や中国語との比較文法論なども興味深く読める。

研究社、平成14年(2002)4月

英語辞典を使いこなす

笠島準一

英語辞書の使い方を、体験談を交えて教授した本。昭和61年に講談社現代新書から出たものに補章を付け加えた文庫化したもの。英和辞典・英英辞典・和英辞典をいかに便利に有効に使うか、そして学習辞典の活用法などを豊富な用例を示しながら教える。文庫版に書き下ろされた補章では、専門の応用言語学の立場から、外国語学習のメソッドの変遷を辿った上で、英語学習や辞書活用の現状を解説している。

講談社学術文庫、平成14年(2002)3月

私の國語教室

福田恆存

昭和35年に新潮社から刊行された歴史的著作の復刊。昭和21年に制定された「現代かなづかい」の問題点を徹底的に批判し、表音主義は表記の原理としては成り立たないこと、表記法は語に随うべきことなどの論理によって、「歴史的仮名遣ひ」の正統性を説く。規範的な正統表記の必要を訴えるが、表音主義が国語の破壊に帰結する原理主義であるのとは正反対に、バランスある柔軟な思考に特徴がある。

文春文庫、平成14年(2002)3月

明治を生きる群像〜近代日本語の成立

飯田晴巳

明治時代に近代日本語の成立に尽くした人々の業績を紹介する日本語史。西周・福沢諭吉・大槻文彦・ヘボン・チャンブレン・三遊亭円朝・二葉亭四迷・夏目漱石など近代日本語の研究・政策・文体創造に関わった日本人と外国人15人を取り上げている。簡単な近代日本語成立史も付されていて、近代日本語の成立過程と明治の人々の日本語についての思想や苦心を概観するのに便利な本。

おうふう、平成14年(2002)2月

日本語教育に生かす第二言語習得研究

迫田久美子

誤用、中間言語、学習ストラテジー、バイリンガリズム、異文化適応、母語喪失など、第二言語習得の諸相を、様々な学説的アプローチから解説した本。第二言語習得研究の入門書であるとともに、第二言語習得研究の知見を日本語教育に生かすための教科書にもなっている。
日本語教育関係者は読んでおきたい一冊。巻末に用語集が付いている。

アルク、平成14年(2002)2月

コミュニケーションのための英会話作法

大津栄一郎

英語でコミュニケーションするためのノウハウを説いた本。日本人が英語が苦手なのは単純に英語を話す環境にないからであることを指摘し、外国人が文法抜きで英語を習得できるという考え方を戒めた上で、自分を持ち、話すことを持つことが肝心であり、ネイティブがやっているようにシンプルなフレーズで気持ちを伝え、わからないことはどんどん聞くという英語文化圏のコミュニケーション作法を説いている。

岩波アクティブ新書、平成14年(2002)1月

明治前期日本文典の研究

山東功

明治前期に地方教育者も含めて多数著された日本文典を研究史的に検討した本。現在の視点からいたずらに価値判断を下すのではなく、その時代の思想潮流という歴史性を総合的に把握する日本語学史を提唱し、国民国家形成途上にあった明治前期の学制発布後に文法研究・国語教育を作り上げねばならなかった時代の要請、そして知識人たちが国家形成の担い手であったという歴史性の中に初期日本文典を跡付ける。

和泉書院、平成14年(2002)1月

日本語教育は何をめざすか

細川英雄

日本語学習を、知識的な言語や文化の習得に終わらせず、学習者が主体的に日本語コミュニケーション活動能力を見に付けるための総合的な訓練の場と捉え、ステレオタイプでない異文化認識、日本語話者としての真の人間交流を目的とした日本語教育を提唱した本。
学習者の主体性から構築された言語文化活動理論は大変興味深い。

明石書店、平成14年(2002)1月

初心者向き すぐに役立つ日本語の教え方

小島聰子

理論は勉強しているが、教えることはまだ経験が乏しい、あるいは全くないという日本語教師初心者のためのガイドブック。心構え、日本語教師の仕事内容、コースデザイン、授業の組み立て、教材、実際の教え方・進め方、評価・テスト、そして自分の未熟さや失敗から学ぶことなど、新前日本語教師が現場において仕事をしつつ成長していくことをアシストする明快平易なマニュアルである。

アルク、平成14年(2002)1月

日本語に主語はいらない

金谷武洋

明治以来、国文法・学校文法は英文法をモデルに作られてきたため、日本語の事実と合わない文法になっている。特に構文論・形態論的に見て日本語には主語は存在しないのに、主語という概念を国文法に持ち込んだために、徒に混乱するだけの悲劇を生んだ、と主張する問題提起の書。
三上章の学説を踏まえつつ、情熱的に主語無用論と日本語に根ざした文法の必要性を説いている。

講談社選書メチエ、平成14年(2002)1月

英語 確実に聴きとる技術

ディピッド・A・セイン

英語学習のコツをリスニングの観点から説いた本。英語ネイティブの発音ルール(消音・連結・短縮・同化・変形など)を理解し、それを聴きとり、会話を成立させる実践テクニックを教える。日本語の語順に訳して理解するのではなく、英語の語順で理解すべきこと、適切な相槌を打ち、わからないことははっきり聞き返すこと、英英辞典の効用、シャドウイングやディクテーションなどが平易に書かれている。

KAWADE夢新書、平成14年(2002)1月

伝わる英語表現法

長部三郎

日本の英語教育を批判し、実践的な伝わる英語表現法を説いた本。単語単位の直訳英語表現ではなく、具体的・説明的・構造的という英語の特徴を把握した上で英語を表現するという方法論を提唱する。英語は論理的と言われる性格を規定する並列性・相称性・対比性・連続性という英語の構造の解説は特に面白い。文法学習否定というより、英語の核心をつかむための優先順位を付けた学習法を説いたもの。

岩波新書、平成13年(2001)12月

英語で日記を書いてみる〜英語力が確実にUPする

石原真弓

英語で日記を書いてみることによって英作文の能力を身に付ける方法を説いた本。前半は中学〜高校一年レベルの英語のおさらいで、これがかなりわかりやすく、文例も豊富で、ある程度英語力がある人が整理するのに使える。後半は文法的に誤りのない日本人英語とネイティブ英語による実例という構成。表現集として使えるものになっており、日記だけではなく、メールやブログなどにも活かせるだろう。

ベレ出版、平成13年(2001)12月

日本語の歴史〜青信号はなぜアオなのか

小松英雄

活写語・カタカナ語・音便・色名・係り結びに関する日本語史の個別問題を解きつつ、日本語史研究の方法を示した本。民主的でプラグマティックな言語論から、規範主義的な保守的国語論や通俗的な日本語論を批判している。保守的国語論が言語運用の民主的メカニズムに介入することを批判するあまり、逆に多様なアプローチによる言語のせめぎ合いを否定してしまっている面もあるが、実際の論の展開は合理的。

笠間書院、平成13年(2001)11月

抄物による室町時代語の研究

来田隆

室町時代の抄物を研究した論文集。抄物とは室町中期から江戸初期の漢文の解説や注釈の書のことで、五山僧や博士家によって多くの抄物が残されているが、本書では抄物をテキストに、室町時代の国語の文法や語法や語彙の変遷などを考察している。比較的、全国的な共通性が高い室町時代の抄物のことばに上方と東国の方言差が見られることを、文末表現の研究から明らかにしているのが興味深い。

清文堂出版、平成13年(2001)11月

言語学のしくみ

町田健

「日本語のしくみを探る」第3巻。ソシュール以降の言語学の学説を紹介し、現代言語学の要諦を概説した本。平易に書かれた入門書だが、内容は濃く、音声と音韻、文法と意味などにまつわる言語学の問題点を考え抜いた著者の見解が随所に見える。本書を読むと、言語学や日本語学を学ぶ過程で感じていた様々な疑問が正当な疑問であったことがわかり、次の段階へ進めるという意味でも、優れた入門書である。

研究社、平成13年(2001)11月

英語襲来と日本人〜えげれす語事始

斎藤兆史

近代日本の英語受容史。幕末における英語との出会いから明治の英語熱を振り返りながら、日本人と英語のあるべき関係を考える。現在の英語公用語化論や早期教育などの英語ブームを批判的に検証し、現在優勢になっている会話中心のコミュニケーション英語学習は良く行って二流三流の無国籍人を作るだけの大衆向け教育であり、一流の国際人を養成するには文法や訳読を叩き込むエリート教育こそが必要と述べる。

講談社、平成13年(2001)11月

差別語からはいる言語学入門

田中克彦

差別語と差別語糾弾運動を手がかりに、言葉について考え、日本語をいかに生産的なものにするかということを考察したエッセイ集。言語がエリートによる民衆支配の道具になること、方言への蔑視、身近な和語を排除して漢語やカタカナ語に言い換えて済ます言語心理など、多岐にわたる議論を展開している。被差別者の抗議は積極的に認めながらも、差別語糾弾運動が権力に転化することを批判している。

明石書店、平成13年(2001)11月

漢字と日本人

高島俊男

文字を持たなかった日本語は外国語である漢字を文字として受け入れたが、それによって音声が意味を担い得ずに意味が大きく文字(漢字)に依存する特殊な言語として畸形成熟したという著者が、日本人と漢字との関係の歴史を辿りながら日本語の宿命を語る。畸形を正そうと漢字の制限や廃止をすると日本語は幼稚化し滅亡するので、日本語の「伝統」を断ち切ることなく継承発展させるべきと説く。

文春新書、平成13年(2001)10月

日本語学のしくみ

加藤重広

「日本語のしくみを探る」第4巻。日本語の類型論的・系統論的な位置付けや、音韻・文法・語彙・方言・敬語などについて平易に解説した日本語概説。広く日本語に関わる項目を概観し、日本語教育にも説き及んでいる。助詞「は・が」の文法論や「こ・そ・あ・ど」の語用論などの個別テーマも非常にわかりやすく説かれていて、初心者には勿論、問題点を整理したい既学者にも役に立つ日本語概説である。

研究社、平成13年(2001)10月

日本語は生き残れるか〜経済言語学の視点から

井上史雄

言語を市場価値の観点から扱う経済言語学による日本語論。世界には優勢な言語と劣勢な言語という格差が厳然とあることを前提に、急激な国際化の中で日本語が生き残れるかを論じる。それなりの大言語である日本語は簡単に滅亡はしないだろうが、言語習得の難易度、国力の衰退、日本人の言語的忠誠度の低さなどから地位は下がって行き、日本語そのものも国際化の影響でかなり変質するだろうと推測している。

PHP新書、平成13年(2001)8月

日韓両国語における敬語の対照研究

賈惠京

1988年と1999年に日韓で実施したアンケート調査をもとに、日韓両国語における敬語の現状を社会言語学的に研究した本。10代・30代・50代と世代別に調査することで、社会の変化とともに敬語の使用状況も大きく変化しつつあることがわかる。両国には敬語の変化に並行性が見られるが、強固な儒教倫理を反映して日本の若者よりも韓国の若者の敬語の使用度がかなり高いという結果が出ている。

白帝社、平成13年(2001)8月

漢字道楽

阿辻哲次

漢字学(中国文字文化史)の碩学が、漢字をめぐるあれこれを考察した学問的エッセイ。活版印刷業の家に生まれて文字と親しむようになった個人的な生い立ちから、漢字の誕生の話、漢字の構成原理、国字の中国への逆輸入、漢字制限論やタイプライターやワープロなどの技術的な問題などについて縦横に語っている。漢字の原理論については平易に書かれており、漢字学の入門に適している。

講談社、平成13年(2001)6月

生きている日本の方言

佐藤亮一

国立国語研究所編『日本言語地図』の調査編集に関わった著者による方言論。柳田国男の方言周圏論の有効性とそれ以外の要因が推定される場合を示し、方言に多様なメカニズムがあり得ることを解説する。語彙だけではなく、助詞・助動詞は意外と地域差が大きいため、地方出身の日本語教師は標準語用法を常に意識する必要があると注意を促している。著者を含む言語学者たちの方言エピソードも面白い。

新日本出版社、平成13年(2001)6月

言語の興亡

R.M.W.ディクソン著/大角翠訳

オーストラリア先住民語の研究で知られるイギリス人言語学者が1997年に出した本の日本語訳。歴史言語学の方法論を示したもので、従来の系統樹と言語圏というモデルを総合し、言語変化は平衡状態と中断期の状況において起きるとする断続平衡説を提唱する。急速に絶滅しつつある諸言語を記述するという今こそ必要なフィールドワークをせずに、流行の言語学理論に飛びつく研究者たちに苦言を呈している。

岩波新書、平成13年(2001)6月

日本語教育学入門

縫部義憲

言語学・心理学・社会学などを総合しつつも、あくまで教育学の観点から書かれた外国語教育としての日本語教育学の理論書。
日本語教育が教材を学習する目的のための手段に堕すことなく、教室を関係が生起し人間が成長する社会的な場として捉え、日本語の学習が同時に自己実現の過程でもある「人間中心の日本語教育」を説く。

瀝々社、平成13年(2001)5月

バイリンガル教育の方法・増補改訂版

中島和子

バイリンガル教育を、幼児期から12歳までのバイリンガル形成期の家庭教育と教育機関の面から探究した本。バイリンガルは母語の土台に花咲くものであることを前提に、アイデンティティが不安定になることなくバランスよく2言語を発達させたバイリンガルの価値や意義、逆に両言語とも中途半端になるセミリンガルに陥るリスク、バイリンガル教育の実例、適切なバイリンガル教育の方法などが論じられている。

アルク、平成13年(2001)5月

日本語学習者の文法習得

野田尚史他

第二言語としての日本語の学習者がいかにして文法を習得していくかを、誤用や中間言語の分析、母語習得との比較、教室と教室外の社会という学習環境、学習者の母語の影響などから多面的に研究した論文集。学習者の主体性を重視し、学習の過程で現れる誤用を否定せずに、学習者が独自に作り出す文法として評価している。日本語教師が学習者の誤用を修正するタイミングとやり方の参考になる。

大修館書店、平成13年(2001)4月

赤ちゃんの手とまなざし〜ことばを生みだす進化の道すじ

竹下秀子

霊長類の赤ちゃんとの比較においてヒトの言語の発生や特質を比較認知科学的に考察した本。ヒトと他の類人猿と比較した共通性と違いは環境世界と関係する構造の成立に見られ、手を通じての行動の構造(そこには道具を使う行動の文法構造がある)は共通性があるが、さらにヒトは母親との二者関係においてまなざしを通じて同一化することで他者をコピーして言語の構造を獲得するとする。

岩波書店、平成13年(2001)3月

外国人力士はなぜ日本語がうまいのか

宮崎里司

敬語まで含めて見事に日本語を駆使する外国人力士の日本語習得の秘訣を、目標言語に浸り切るイマージョン教育に近い環境にあることを実際に外国人力士の日々の生活に取材したもので、読み物としても面白い一冊。
第二言語習得において最も必要な条件として、本人のモチベーションと目標言語を使わざるを得ない環境とその環境への順応性を挙げている。

日本語学研究所・明治書院、平成13年(2001)3月

怪しい日本語研究室

イアン・アーシー

カナダ人の和文英訳翻訳家が見事な日本語による絶妙の語り口で楽しく読ませる日本語論。
日本語の固有の特性に基づいて、「日本語の乱れ」を許容すべきと説く一方、日本語にとって保守的であるべき部分をバランスよく説いているところが特徴。言葉が好きな少年のような目で日本語を見ていて、日本語から読み解く日本文化論も面白い。

毎日新聞社、平成13年(2001)3月

国際理解教育

佐藤郡衛

国民国家に支配された国民教育ではなく、また在日外国人の子供を母語・母文化によって囲い込むのでもなく、マジョリティの子供と外国人児童や帰国子女などのマイノリティの子供の相互作用を通じて新しい文化を構築し、子供に国家や民族への帰属を超えたポストナショナリズム時代の「ハイブリッドなディアスポラ」としてのアイデンティティを形成させる教育をすべきと提唱した本。

明石書店、平成13年(2001)3月

越境する家族

川上郁雄

1970年代後半からインドシナ難民として日本に定住してきたベトナム系住民の生活世界を総体的に把握しようと試みた文化人類学的研究書。
在日ベトナム系住民のコミュニティ、仕事、宗教、世代間問題、本国との関係、難民としての国際的なネットワーク、日本社会との関係、アイデンティティなどの諸相が客観的に記述されている。ベトナム系住民の理解に欠かせない一冊。

明石書店、平成13年(2001)2月

新しい日本語学入門〜ことばのしくみを考える

庵功雄

日本語教育文法から発展してきた新しい日本語学の概説書。入門と銘打つが、内容は濃く、音韻論・形態論・統語論・運用論・方言学などについて、これから日本語学を学ぶ者にとって必要充分な解説が付されている。細分化が進む日本語研究の重要ポイントを整理してまとめ上げ、研究史的な流れを含む日本語研究の現在が概観できるように構成された、日本語学概論として最良の一冊。

スリーエーネットワーク、平成13年(2001)2月

「同化」の同床異夢

陳培豊

日本統治下台湾の国語教育史を、日本人側からと台湾人側から、そして明と暗の両面から研究した本。特に台湾人の近代化志向に視座を置いて、国語教育に対する台湾人の抵抗と受容の歴史を跡付け、国語教育を日本化ではなく近代化の過程として受容した台湾人の主体性に焦点を当てている。
従来のイデオロギー的植民地国語教育史と一線を画した実証的研究は読み応えがある。

三元社、平成13年(2001)2月

語用論への招待

今井邦彦

生得的な認知の原理としての関連性理論に基づいて書かれた語用論入門。言語は意味確定的な理想文を作り出す力がないが、発話の解釈では聞き手が持つ推論能力によって明意と暗意、比喩を用いた表現や冗談、皮肉などまでが理解されるのであり、逆に言えば発話は推論を経て真理値を持つとし、発話の解釈の学を語用論とする。例文は基本的に英文であり、語用論理論の翻訳的解説書と言うべき内容。

大修館書店、平成13年(2001)2月

仮名表記論攷

今野真二

言語の史的変遷がどのように表記に反照し、逆に表記の変化と選択はどのような言語の変化に基づくのかという問題設定から、平安時代末期〜中世末期における日本語表記の変遷を仮名に絞って研究した論文集。音韻変化に伴って仮名遣いが問題化した中世における仮名表記の実態を異体仮名の統計学的アプローチによって明らかにした労作で、表記論だけではなく文字・音韻・文法・意味・文体各論の基礎研究をなす。

清文堂出版、平成13年(2001)1月

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