南丹日本語クラブ

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日本語教育おすすめ本 6

日本語教育、日本語ボランティア、母語・母文化支援など外国人教育の問題、及び母語・第二言語・外国語の習得をテーマにした良書を紹介します。

英語は多読が一番!

クリストファー・ベルトン著/渡辺順子訳

英語学習本も出している在日イギリス人が英語上達のコツを説いた本。要するに多読せよ、それも小説を読めという結論で、文脈から意味を類推するようにし、3回以上出てこなければ辞書は引かないという大胆な方法論を提示している。もう少し細かく、小説を楽しむために必要な文学的表現を紹介しており、said代用語やよく使われる形容詞・副詞のリストはすぐに役に立つ。巻末にレベル別おすすめ本一覧を付す。

ちくまプリマー新書、平成20年(2008)12月

日本語における文の原理〜日本語文法学要説

竹林一志

山田孝雄の文法論を発展的に継承し、文の本質的機能から日本語文法の原理を考察した本。文の本質的機能を「或る対象について、或る事柄の実現性のあり方を語る」と定義し、古代語における未然形・連用形・終止形における実現性のあり方を原点に据えて、現代日本語における実現性のあり方を分析する。その枠組に基づいて、主語論、述語の機能、連用修飾表現、日本語「スル」言語論などの考察を展開している。

くろしお出版、平成20年(2008)11月

複数の日本語〜方言からはじめる言語学

工藤真由美・八亀裕美

方言を標準語の枠組みではなく世界の諸言語と比較する言語類型論から見ることで、単一の国語ではなく複数の日本語がある実態を捉えようとする試み。すでに実用的なものとして機能しているに過ぎない標準語をことさらに権威と見做した上で「脱中心化」してみせる思想的な古さは見られるが、方言が情緒的にではなく文法的に豊かであることを、テンスやアスペクトの考察を中心に明らかにしている。

講談社、平成20年(2008)11月

書記言語としての「日本語」の誕生〜その存在を問い直す

福島直恭

日本語をめぐるイデオロギー批判の根拠としての日本語虚構論を検討し、たしかに完結した体系として実体している日本語というものは想像上の虚構であると確認した上で、近代の標準語・国家語としての日本語が社会的・政治的機能として誕生した過程を分析する。従来の日本語の実在を前提とした言語研究とは一線を画した立場から、日本語とは何か、日本語学の対象とは何かを問い直している。

笠間書院、平成20年(2008)11月

受験生のための一夜漬け漢文教室

山田史生

漢文学習の基本を平易かつ簡潔に説いた本。漢文教師の父親と高校生の娘の対話形式で、漢文の基礎が一通り理解できるように構成されている。漢文が日本語の古典であることの意味、日本語と漢文の抜き差しならない深い関係にテーマを据えて、語学的に高度なレベルまで踏み込んでおり、受験生向けというより、教養としての漢文をもう一度勉強してみたい社会人向けに適している。

ちくまプリマー新書、平成20年(2008)10月

日本語教師を目指す人のための日本語学入門

近藤安月子

日本語教師を目指す人にとって必要な項目をコンパクトにまとめた日本語学入門。ここ50年の日本語学の蓄積が、簡潔かつ的確に、見事にまとめられていて、日本語学入門の理論編としては決定版と言える内容。日本語教師を目指す人だけではなく、現役の日本語教師が学んできた理論や知識を整理するのにも役に立つ。この本でもまだ謎の部分が残っているのが、日本語の面白いところである。

研究社、平成20年(2008)10月

英語の歴史〜過去から未来への物語

寺澤盾

5世紀にはブリテン島の小民族の言語であった英語が15億人が使う国際語になるまでの歴史を辿る。英語はその時々の国際関係によって北欧語・ラテン語・フランス語などと融合したクレオール語であることや、近代以降の世界進出によって複数の英語が形成されている実態が理解できる。日本語教師もこの程度の英語史は知っておきたい。第4章「綴り字・発音・文法の変化」は日本語史と比較して読むと面白い。

中公新書、平成20年(2008)10月

言葉の海へ

高田宏

昭和53年に新潮社から出た名著の新書版復刊。祖父は蘭学者大槻玄沢、父は儒学者磐渓という学者の家に生まれ、幕末維新期には徳川方として鳥羽伏見の戦いに加わり、維新後には日本最初の近代的国語辞書『言海』を生んだ創成期の国語学者大槻文彦の評伝。漢学・国学・洋学を学び、一国の独立の基礎である国語の統一とその根幹を成す辞書と文法を生涯をかけて作り上げたナショナリストの姿を感動的に描く。

洋泉社MC新書、平成20年(2008)10月

日本語が亡びるとき

水村美苗

帰国子女の経験を持つ小説家の著者が、グローバル時代における日本語の運命と課題を論じたエッセイ集。英語が唯一の「普遍語」になりつつあり、知的エリートが英語人化していく現状を踏まえ、自前で普遍的な知にアクセスしそれを表現できる言語として先人が創った「国語」が、マイナーな「地域語」に転落し、やがて亡びるというヴィジョンを語りながら、これからの英語教育と国語教育の課題を提言している。

筑摩書房、平成20年(2008)10月

マンガのなかの〈他者〉

伊藤公雄編

マンガに描かれた他者、具体的には日本マンガにおける外国人、外国マンガにおける日本人のイメージを、言語学・比較文化論・ジェンダー論・差別論などの視点から考察した論文集。現実の権力関係とは別次元で、表象における権力性の分析のみを弄んでいるきらいが見られるが、実証的研究には興味深いものもある。役割語の研究で知られる金水敏が、マンガに見られるピジン日本語について書いている。

臨川書店、平成20年(2008)10月

「訓読」論〜東アジア漢文世界と日本語

中村春作他編

中国語を日本語の文法によって読む漢文訓読について、思想史・歴史学・中国語学・言語学・日本語学など12人の研究者が読み解く。訓読そのものの史的・言語的研究の他に、翻訳論・日本語文体史・国語教育史・近代ナショナリズムなど様々な切り口からの論文があり、現代思想風エッセイから読み応えのある実証的論文まで揃っている。訓読に関する今後の研究課題の覚書集という趣もある。

勉誠出版、平成20年(2008)10月

外国人学校

朴三石

インターナショナルスクールから民族学校まで、日本における外国人学校の歴史・現状・課題・意義・展望を論じた本。歴史と現状に関して極めて客観的な記述がなされており、課題についても現実的な必要性を基本にして様々な問題点が指摘されている。また、国際化時代における多文化共生という観点から、外国人学校の意義と今後のヴィジョンが語られている。外国人学校について客観的に知るのに有益な一冊。

中公新書、平成20年(2008)10月

日本語の正体

町田健

日本語のしくみを言語学的に整理した本。意味としての事態を表す言語の働きから説き起こし、英語と対照しながら日本語が事態を表す方法を体系的に説明していく。結論として、発音は単純であり、助詞・助動詞によって緻密に意味を表すなど、日本語が言語処理の過程において効率的な言語であることを実証する。言語の本質、音韻・文字、単語、統語という構成で、町田文法と言える内容になっている。

研究社、平成20年(2008)10月

ポライトネス入門

滝浦真人

ポライトネスは対人関係の距離感や配慮などを示す振る舞いを意味し、人類学・社会学や言語学では主に語用論によって研究されている。本書は対人関係に焦点を当てた言語コミュニケーションの諸相を、日本語のポライトネス表現を中心に考察したポライトネス理論入門。英語・韓国語・中国語との対照研究も行なっている。終助詞「か・よ・ね」を意味機能と文脈の相互作用として捉える分析の整合性は見事である。

研究社、平成20年(2008)9月

外国語学習の科学〜第二言語習得論とは何か

白井恭弘

第二言語習得研究の現在を概説した本。『外国語学習に成功する人、しない人』の続編。コミュニカティブ・アプローチを基本に、言語学・心理学・認知科学などの研究を踏まえ、効率的な外国語学習の方法を論じている。学習開始年齢の問題、適性や記憶力という学習者の資質の問題、動機付けの重要性、適切な学習方法など、第二言語習得の全体像が理解できる。外国人に日本語を教える日本語教師にも参考になる。

岩波新書、平成20年(2008)9月

木簡から探る和歌の起源〜「難波津の歌」がうたわれ書かれた時代

犬飼隆

木簡を主な資料として、日本語書記の分析から和歌の起源を解明しようとする試み。木簡として出土した「難波津の歌」を手がかりに、民謡レベルの「うた」、典礼用の「歌」、私的に享受された個人の文芸としての「和歌」という和歌形成史を描く。また、書記から見る時、万葉集は素朴な民衆歌の集成ではなく、知識人による高尚な文芸であり、八世紀日本語の韻文において特殊な存在であることを示す。

笠間書院、平成20年(2008)9月

漢字を飼い慣らす〜日本語の文字の成立史

犬飼隆

日本語の文字・表記の誕生の歴史と古代日本語の姿を、記紀万葉だけではなく、当時の生きた日常語を記した木簡などの出土文字資料から研究する日本語史の本。タイトルは漢字を飼い慣らすことで日本語化した歴史を示し、著者の師の河野六郎の言葉から取られている。朝鮮半島のものを含む出土資料によって、新しい日本語史、さらに古代語の解明を通じた新しい古代史が開かれつつあることが認識できる。

人文書館、平成20年(2008)9月

文章は接続詞で決まる

石黒圭

文脈の理解を助ける役割を担う接続詞に焦点を当てた文法論的文章読本。接続詞の論理的な役割だけではなく、表現の解釈を助ける役割にかなりの重点を置いており、著者の語感の良さも相俟って優れた文章読本になっている。多数挙げられている個別の接続詞の意味と用法の解説も他に類を見ない適切なもの。文末接続詞という特異な概念を扱っているのも特徴。「てか」のような話し言葉の接続詞の考察も面白い。

光文社新書、平成20年(2008)9月

現代日本語文典〜21世紀の文法

小泉保

国文法の活用表や品詞分類を合理的根拠のない旧式の「尺貫法」と批判する著者が、時制と対極性のカテゴリーが組み合わさった語形変化の分類を軸に、現代日本語文法を21世紀の日本語文法の叩き台たらんとして世に問うた本。古文的要素を捨象した現在の日本語中心主義に対する疑問もあるが、音声・音素・形態・統語・意味・語用に亙る包括的な現代日本語の教科書になっている。

大学書林、平成20年(2008)8月

煩悩の文法

定延利之

副題に「体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話」とある。実際の文法は静的・自立的な規則ではなく、認知における環境とのインタラクションによって能動的に創造されているものであり、単なる知識の伝達だけではなく、ワクワク型の探索、ヒリヒリ型の体感、面白さなど人間の煩悩(生きていることを実演的に伝える欲求)によって創造さる文法であることを考察した本。

ちくま文庫、平成20年(2008)7月

ひらがなでよめばわかる日本語

中西進

平成15年に小学館から刊行された『ひらがなでよめばわかる日本語のふしぎ』を改題し、加筆訂正したもの。日本語から外来語である漢語を丁寧に選り分け、本来のやまとことばを通して古代日本人の思惟に迫るとともに、今も日本人の言語生活の中に息づくやまとことばの生命に気づかせてくれる名著。上代特殊仮名遣の甲類乙類の区別を「仲間ことば」として扱うことで、直観的に自然な言語分析になっている。

新潮文庫、平成20年(2008)6月

現代方言の世界

大西拓一郎

「現代日本語の世界」第6巻として書かれた方言学概説。方言地理学の方法論と言える内容で、方言周圏論の隣接伝播モデルを批判的に検証しつつ、標高・交通(鉄道など)・人口データなどの言語情報と空間情報の組み合わせからなる方言情報を軸にした分析方法の開発を構想している。さらに民俗学的な方言周圏論に対して、方言の東西対立という現象の深層に多元的な民族言語の存在を推定している。

朝倉書店、平成20年(2008)6月

訓読みのはなし〜漢字文化圏の中の日本語

笹原宏之

漢字の文字・表記のシステムと運用を、日本の訓読みに焦点を当てて論じた本。外国語の文字である漢字を固有語の大和言葉で読んだ訓読みはその後の日本語の性格を決定付けたものと言えるが、訓読みの多彩多様・変幻自在・融通無碍な世界を、多数の例を挙げながら紹介する。中国・台湾・中国少数民族・韓国・ベトナムなど漢字文化圏における訓読み事情にも説き及んでいる。

光文社新書、平成20年(2008)5月

日本人の脳に主語はいらない

月本洋

言語における母音比重度と主語省略度は比例するという現象を脳科学の観点から追究し、母音優勢という音声的特徴を持つ日本語によって脳を形成される日本人(日本語を母語とする人)は、脳の構造上、主語を必要としないという仮説を提示した本。各言語によって脳は形成されるため各言語を超えた普遍文法は存在しないという結論を導き出し、日本語学における主語論争に一石を投じている。

講談社、平成20年(2008)4月

日中文化の交差点

王敏編

日中の日本研究者による、国益論から距離を置いた実証的・科学的な日本研究を標榜した比較文化研究の論文集。実際には政治的な文書も混ざっているとは言え、中国人学者が光と影を含めて客観的かつ日本を深く理解しようとしている姿勢が伝わる読み応えのある論文もあり、非常に学ぶべきところが多い。ジャンル的に多岐にわたり、日本語学関連のものも収められている。国際日本学シリーズの一冊。

三和書籍、平成20年(2008)4月

日本語教育と音声

戸田貴子編著

日本語教育を音声的側面からアプローチした論文集。興味深いのは、大人になってからネイティブ並みの発音を身に付けることができるかというテーマで、言語的天才でなくても音声に焦点化した訓練を自覚的に行なうことで日本語の発音獲得に成功した人々(20代が中心)の研究によって、いわゆる臨界期仮説を相対化する問題提起を行なうと共に、音声研究の成果を踏まえた教育実践の意義を説いている。

くろしお出版、平成20年(2008)3月

韓国語から見えてくる日本語

松本隆

日本語教師による韓国語のすすめ。副題に「韓流日本語鍛錬法」とあるように、日本人(特に日本語教育に携わる者)が韓国語を学ぶことは、日本語学習者の身になって第2言語の学習体験をすることになると共に、構造的に似た言語である韓国語を通して母語話者には客観視しにくい日本語を客観的に学ぶことにもなると説いている。日韓両言語の歴史的関係も含めて、日本語と韓国語の諸相を照らした名著。

スリーエーネットワーク、平成20年(2008)2月

唱歌と国語〜明治近代化の装置

山東功

唱歌と国語という教科を明治近代化の装置として読み解く試み。明治の近代化は国語の構築とその国民への教育を国民国家形成の課題としたが、唱歌もまた国語の同伴者のような形で近代化の装置として機能していたことを、伊沢修二ら唱歌に関わった人々の活動から跡付ける。唱歌を通じて、近代ナショナリズムが国粋主義の装いをとりながら、日本人の身体の西洋音楽化を成した歴史を明らかにしている。

講談社、平成20年(2008)2月

日本語と日本思想

浅利誠

日本語教師としてフランス人に日本語の助詞をどう教えるかという問いから始まった、日本語文法と日本思想をめぐる哲学的探究の書。柄谷行人の日本語論や三上章の提題の係助詞「は」の文法論を手がかりに、本居宣長・西田幾多郎・和辻哲郎・時枝誠記・大野晋などの文法論や日本思想が、ヨーロッパの文法論や哲学と比較されつつ、批判的かつ模索的に論じられている。

藤原書店、平成20年(2008)2月

西洋人の日本語発見〜外国人の日本語研究史

杉本つとむ

ロドリゲス『日本大文典』などの吉利支丹宣教師の研究、ロシアの日本語教育、ホフマン『日本文典』、ヘボン『和英語林集成』など、近世における西洋人の日本語研究の軌跡を辿った本。日本語教授法の参考資料としても書かれている。国内では国学者が日本語を深く研究していたが、外国人の研究者も日本語のポイントに気づき、核心に迫っていたことがわかる。伝記的部分と語学的考察を兼ね合わせた名著。

講談社学術文庫、平成20年(2008)1月

世界言語のなかの日本語〜日本語系統論の新たな地平

松本克己

世界言語の言語類型地理論的な考察から日本語系統論に迫る試み。従来の系統論を吟味して学問的に否定すべき学説は斥け、学際的な研究も視野に入れながら、朝鮮語・アイヌ語などの環日本海諸語に日本語を位置付ける。さらにアメリカ大陸の先住民言語との系統的つながりをも視野に太平洋沿岸言語圏という壮大な構想を描く。日本語は日本列島に土着的な古い言語であり、クレオール語でもないことなどがわかる。

三省堂、平成19年(2007)12月

日本人の〈わたし〉を求めて

新形信和

西洋と日本における「わたし」の在り方の違いを、美術・宗教・文学・武道・哲学などの比較から論じた文化論。分裂している彼我の「わたし」の違いを自覚せず、伝統的な「わたし」を失いつつあることで両方の「わたし」を失いつつあるところに日本人の危機があるとし、日本的な「わたし」を取り戻して彼我の「わたし」に連絡をつけることが日本人の課題と提起している。日本語の主語論としても重要な本。

新曜社、平成19年(2007)11月

世界に通用しない英語〜あなたの教室英語、大丈夫?

八木克正

日本の教室英語、学習文法の問題点を批判的に検討し、英語教育の改善を提言した本。学習文法の形成を幕末期から歴史的に検討し、斎藤秀三郎ら学習文法の確立期の間違いや古臭い用法が今なおそのまま残っていることを明らかにし、現在の学習文法の問題点、教員採用試験問題の英語の問題点、英和辞典の問題点を検証する。コミュニケーション本位の学習文法ではなく、しっかりした文法教育の必要を説いている。

開拓社、平成19年(2007)10月

日本語てにをはルール

石黒圭編著

助詞・助動詞などだけではなく文章の表現法まで含めた広義のてにをはルールと、それを駆使した良質な文章を書く工夫を伝授する問題集形式の読み物。新進の日本語研究者・日本語教師5人が文法・語彙・表記・敬語・作文の各テーマで執筆しており、日本語教師にも役に立つ内容になっている。指南にはやや押しつけがましいところも見られるが、ふだん何気なく使っている日本語にひそむ問題点がよくわかる一冊。

すばる舎、平成19年(2007)10月

アブダクション〜仮説と発見の論理

米盛裕二

アメリカの哲学者C・S・パースの重要概念アブダクションを中心に、探究的推論に関する論考を収めた本。人間の認知の世界は記号によって成り立っており、本質的に曖昧なものである。曖昧な世界において科学的発見をもたらす非厳密的な推論であるアブダクションの他、帰納についても詳説している。また、理想的言語を求める科学知に対して、日常言語における常識知の役割と必然性についても言及している。

勁草書房、平成19年(2007)9月

日本語と日本語論

池上嘉彦

平成12年に講談社から出た『「日本語論」への招待』の文庫化。認知言語学的アプローチによる英語表現と対照しながらの日本語研究。数の把握、モノ・コト・トコロとして事態を把握する認知の仕方、主語の省略などの考察を通して、日本語は状況に感情移入して語る主観的把握を基本とする言語であり、受身的・身体的・モノローグ的さらには主客合一的な認知をしていることを明らかにしている。

ちくま学芸文庫、平成19年(2007)9月

日本語の源流を求めて

大野晋

ヤマトコトバの源流を古代タミル語に見出した国語学の碩学が、六十歳でタミル語に出会ってから四半世紀を超える研究を重ねてきた成果を、亡くなる前年に一般向けに書いた本。紀元前10世紀に南インドから九州に水田稲作・鉄器などの文明と共にタミル語も到来し、ポリネシアと共通するものであった西日本縄文人の言語に影響を与えてヤマトコトバが形成されたという壮大な仮説を唱える。

岩波新書、平成19年(2007)9月

日本語の歴史(6)新しい国語への歩み

亀井孝他編著

昭和40年に出た「日本語の歴史」第6巻の文庫版。江戸語から東京語への連続と断絶、国語教育における漢学・国学・洋学のせめぎ合い、近代的な論理を表現するための文体を産み出す努力、近代語彙における漢語の役割、標準語・共通語と方言の関係など、近代国家の成立に伴う民族の一大事業としての国語の形成を跡付ける。漢語の存在が国語の形成において大きなテーマであったことがわかる。

平凡社ライブラリー、平成19年(2007)9月

日韓の言語文化の理解

洪a杓(ホン・ミンピョ)

日本と韓国における言語行動のフィールドワークをもとに日韓の言語文化を実証的に比較した日韓対照社会言語学の研究書。言語行動に表れた日本人と韓国人(および一部中国人・アメリカ人)の世界観・価値観・人間関係・ボディーランゲージ・相互イメージ等、コミュニケーション全般にわたる調査データと考察から、両国民の類似点と相違点を明らかにしている。日韓の相互理解に非常に役に立つ一冊。

風間書房、平成19年(2007)8月

日本語の歴史(5)近代語の流れ

亀井孝他編著

昭和39年に出た「日本語の歴史」第5巻の文庫版。上方語と江戸語のアクセント、近松・才覚・芭蕉などの近世文学、出版と教育、言語の学問としての国学など、(国語史的には近代の始まりになる)近世の日本語の諸相を辿る。古代の伝統を重く背負った中世的世界から脱し、市民的な広がりを持つに至った自由な文芸的・学問的近世を描き出し、民族の自覚としての国学を高く評価している。

平凡社ライブラリー、平成19年(2007)7月

英文法の論理

斎藤兆史

文法から学ぶ英語学習の本。高校程度の英語力を持っている読者を想定し、日本人が獲得している日本語の言語運用の基本となる規則性(日本語文法)を手がかりとして英語の言語運用の基本となる規則性(英文法)を学び、その文法的基礎をもとに英語の実力を身に付けるという王道的方法論で書かれている。文法編と読解編という構成で、しっかり学べば大学受験レベルはクリアできる読解力が身に付く。

日本放送出版協会、平成19年(2007)7月

漢字の文化史

阿辻哲次

漢字の文化を、漢字の形成・確立された古代中国の殷から漢にかけての時代を対象に、それぞれの時代の政治・経済・社会とともに跡付けた本。平成6年にNHKブックスから出たものの文庫版。漢字の誕生、漢字が宗教的な性格を持っていた時代、社会の発展とともに発達していった文字の多様な使い方、小篆や隷書の確立、漢字研究の始まり、古代日本における漢字の受容などのテーマで、論じている。

ちくま学芸文庫、平成19年(2007)6月

英文読解術

安西徹雄

著名な英文学者・翻訳家が英文読解のポイントを説いた本。平成7年にちくま新書から出たものの文庫化。8編のアメリカの新聞・雑誌のコラムを教材に、受験用の英文解釈にとどまらず、英文の内容を論理と表現の両面から把握するというアプローチによって読解していく。複雑な構文はほとんどなく、語彙を別として大学受験レベルの英語力で十分に読み解けるので、英文を味わうための入門書に適している。

ちくま学芸文庫、平成19年(2007)6月

エスペラント〜異端の言語

田中克彦

民族言語が「国語」として有機体論的イデオロギーに転じ、規範として人間を縛る側面に対して批判してやまない著者によるエスペラント入門。エスペラントの啓蒙主義的・国際主義的・ヒューマニズム的な政治史的・思想史的背景がよくわかる。人間群像が魅力的に描かれており、エスペラントと日本との関わりやエスペラントに関わった日本人たちの記述がとりわけ興味深い。

岩波新書、平成19年(2007)6月

英文の読み方

行方昭夫

会話重視の風潮にあって、英語を読むことの重要性はなお変わらないとする立場から英文読解の方法を説いた本。大体の文意は取れるという逐語訳のレベルから脱し、コンテクストを把握し、表現のニュアンスを汲み取って、意味を正確に解読し、さらにテクストの文体を確定して、日本語として成立している翻訳ができるまでの課程を実践的に教授する。内容的には優秀な高校生のレベルで、かなり難しい。

岩波新書、平成19年(2007)5月

日本語の歴史(4)移りゆく古代語

亀井孝他編著

昭和39年に出た「日本語の歴史」第4巻の文庫版。奈良時代から平安時代、さらに古代語から中世語へ移りゆく時に大きく変化した日本語の姿を、上代特殊仮名づかいの崩壊、音便の発生、五十音図による日本語音韻の意識化などの音韻面から跡付ける。また、文芸における古典主義、近代日本語へつながっていく口語表現、古代・中世の方言、ポルトガル・朝鮮・シナなど外国人による日本語研究などを論じている。

平凡社ライブラリー、平成19年(2007)5月

古典日本語の世界〜漢字がつくる日本

東京大学教養学部国文漢文学部会編

東京大学教養学部の一・二年生向けのテーマ講義をもとに作成された本。古代から近代までの日本語をテーマにした9編の講義が収められている。日本語は、古代に漢字・漢文と出会い、漢文を訓読することで成立したという事実を前提に、日本語書記の揺籃期、漢文と和文との関係、室町時代の標準語としての抄物などについて論じる。高校生対象のような平易な語り口で読みやすい。

東京大学出版会、平成19年(2007)4月

漢字がつくった東アジア

石川九楊

東アジアを漢字によって作られた漢字文明圏と捉え、漢字との関係から、日本・朝鮮・ベトナム・渤海・台湾・沖縄・アイヌなど東アジア諸地域の文化やナショナリズム形成の歴史を描いた文明論。漢字の受容の仕方によって生じた文化的多様性を追いつつ、漢字文明圏という共通性の由来を探る。東アジアという地域と民衆という存在に理想主義的な思い入れが見られるが、文字を通じた東アジア史の構想は面白い。

筑摩書房、平成19年(2007)4月

ラテン語のしくみ

小倉博行

平易で取っ付きやすいラテン語入門書。読み物として楽しみながら、発音・性・数・格・時・法などのラテン語の基本的なしくみを身に付けることができる。単純な発音や高低アクセント、語順、「てにをは」「この・その・あの」など、ラテン語は意外なほど日本語と似ており、ラテン語の予備知識があれば、欧米人が日本語を学ぶ際の参考になることがわかる。格言や叙事詩などを収録したCDが付いている。

白水社、平成19年(2007)4月

日本語の歴史(3)言語芸術の花ひらく

亀井孝他編著

昭和39年に出た「日本語の歴史」第3巻の文庫版。平安時代における日本語表記体の史的展開を辿る。口頭言語と漢文の影響下に成立した書記言語との関係、平安前期の漢文漢詩隆盛のいわゆる国風暗黒時代における日本語の状況、仮名文字が登場し漢文の桎梏を脱して和文が成立する過程、その一方で論理的な骨格を持った和漢混淆文の成立など、日本語の表記体建設の努力と言語芸術の開花を跡付ける。

平凡社ライブラリー、平成19年(2007)3月

外国語として出会う日本語

小林ミナ

ネイティブスピーカーは文法的知識がなくても正しく文法が使え、誤用を感じ分ける言語直感を持っているが、外国人は当然それを持たない。言語直感を持たない外国人が外国語として出会う日本語の文法や社会言語学的問題を、外国人の誤用例を中心に解説した本。文法的には合っていてもどこか変だという容認可能性に関わる問題を外国人にどう教えるかなど、外国人に初めて日本語を教える人に役立つ内容である。

岩波書店、平成19年(2007)2月

韓国における日本語教育

纓坂英子編著

韓国における日本語教育の歴史と現状と課題を、日本語教育学・言語学・心理学など様々な分野の研究者たちが調査考察した論文集。
外国人が日本語を学ぶ動機は日本の経済状態を反映するものだが、かつて日本に植民地化されていた韓国では、日本語教育の動向は経済だけではなく政治状況に左右されやすい。本書ではそうした韓国人の対日観に多くが割かれている。

三元社、平成19年(2007)2月

漢文脈と近代日本〜もう一つのことばの世界

斎藤希史

近代日本の漢文脈の展開を跡付けた本。士大夫のエトスとしての漢文が明治維新を準備したこと、近代化の過程において漢字漢語の高い機能を保持しつつ漢文の精神世界からは離脱する実用的な訓読文が用いられるようになったこと、漢文の精神世界が近代文学の一つのルーツになったこと、訓読文の否定として現代日本語が成立したことなどの日本語の歴史を辿りながら、近代日本における漢文脈の意味を考察する。

日本放送出版協会、平成19年(2007)2月

漢字テキストとしての古事記

神野志隆光

古事記が漢字で書かれたテキストであることに着目して読むべきとする古事記論。古事記は古い伝承や古語を書きとどめたものであるという通念を語法の特徴の分析から批判し、従来の古事記の読み方の起源は太安万侶が序文で虚構したものであり、本居宣長や近現代の研究者もその擬制に囚われて読んできたとする子安宣邦・柄谷行人的テキスト論を展開している。こなれない翻訳のような文体で書かれている。

東京大学出版会、平成19年(2007)2月

日本語の歴史(2)文字とのめぐりあい

亀井孝他編著

昭和38年に出た「日本語の歴史」第2巻の文庫版。文字論と漢字論から説き起こし、日本語が漢字と出会って日本語書記のための文字と表記のシステムが形成されるまでの歴史を描く。訓読や仮名など日本人が漢字を日本語の構成要素に飼いならしていく過程を辿ることで、漢字文化圏において特異な国語形成をした日本語の根幹に関わる問題を探究する。漢字の受容に帰化人が果たした役割も重視されている。

平凡社ライブラリー、平成19年(2007)1月

方言は気持ちを伝える

真田信治

方言研究の第一人者が、現在の方言の動向を辿りながら、方言の復興を訴えた本。グローバル化の中で淘汰が進む少数言語とパラレルに方言を位置づけ、方言ネイティブとして自分自身の言葉を保持する意義を説く。中高生向けに書かれた本だが、方言研究の入門書として最適の一冊になっている。支配言語の「標準語」では掬い切れない実感を表現する媒体として、方言復権の運動が起こっている現状報告も興味深い。

岩波ジュニア新書、平成19年(2007)1月

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